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257 そうだ、遺跡に行こう!

 討伐を引き受けた俺たちはさっそく男たちにその遺跡の場所を聞いた。ザレの村からは歩いて半日ほどの距離だった。


 ただ、途中、厳しい崖があるそうで、普通はそれを迂回して行くということだったが――、


「なんだと! そのようなものがあるのか!」


 とたんにその話に激しく食いつくヤギだった。


「男たちよ、聞かせてくれ。その厳しいという崖は、リュカの崖に匹敵するほどなのか?」

「いや、そこまでは――」

「では、リュカの崖の厳しさを十とすると、どれぐらいの厳しさなのだ?」

「え、そうだな……五、いや、六ぐらいかな?」

「ほほう、六もあるのか。なかなかいい塩梅だな!」


 その答えにとても満足したようなヤギだった。


「トモキ、善は急げだ。今すぐその遺跡とやらに出立しよう。崖が俺を待っている」

「崖って」


 あくまで目的はモンスター討伐なんだが? 崖のぼりを楽しむために行くわけじゃないんだが?


「……まあいい。お前も乗り気になったようで何よりだ。ところで、ほとんど俺一人で話をすすめちまったけど、ユリィとザックはこの討伐引き受けてもよかったか?」

「もちろんです。人助けは大事です」


 と、にっこり答えるユリィ。


「俺も、ゆう、トモキのやり方には賛成だぜ。ぬるい採集活動にも飽きてきたところだからな。レジェンドモンスター討伐たあ、腕がなるぜ!」


 と、何やら揉み手をして答えるザックだった。もしかして、こいつ指の関節鳴らそうとしてるのかな? 鳴ってないけど。


 そもそも、ぬるい採集活動に飽きてきたってのもなんだよ。お前、一日しか仕事してないじゃねえか。イキるのもたいがいにせーや。


 ま、何はともあれ、俺たちの意見は一致したってわけか。俺たちはそれからその安宿を出て、道具屋に戻り、ランタンやロープなど遺跡探索に必要そうなものを一通り買った。そして、すぐにザレの村を出た。


 村から遺跡へは小道が通じており、特に迷わず進むことができた。


「なあ、ところで、勇者様たちって、なんでこんな島でハンターやってるんだ?」


 道中、ふとザックが尋ねてきた。そういや、こいつには何も説明してなかったか。


「俺はベルガドの祝福ってやつを探し求めてるんだよ。で、そのためにまずハンターやって金を稼ごうってわけで」

「ベルガドの祝福? そんな、おとぎ話レベルの話を信じるなんて、勇者様って意外とコドモなんだなー。はは」

「お前に言われたかないよ!」


 お前こそ、ただイキってるだけのガキじゃんよ。


「でも、ベルガドの祝福ってやつを探してるなら、モンスターのベルガドに直接話つければいいんじゃね? 確か、この島自体がベルガドってモンスターなんだろ?」


 と、ザックは立ち止まり、その場の地面を足で蹴った。


「あ、言われてみれば」


 確かに。その発想はなかったわ。なんか来てみたらここ普通に島だし、それそのものに直接話をするとか、そういう考えにはならなかったんだよな。


「じゃあ、さっそく、ベルガドに俺の存在を教え――」


 と、地面を殴ろうとした時だった、


「待て、トモキ。はやまったことをするな」


 ヤギがそんな俺を止めた。


「お前たちは少し、ベルガドというものに対して不勉強なようだ。この島がベルガドというモンスターそのものであることには違いないが、記録によると、ここ三百年はベルガドは眠り続けており、そのあいだ、いかなる人の呼びかけにも反応していないそうだぞ」

「え、三百年も?」


 また、寝耳にウォーターな情報だ。


「じゃあ、ここで俺が地面を力いっぱい殴ったら?」

「ベルガドの物理障壁に弾かれるだけだろう」

「ああ、そうか。島だけど一応レジェンドだし、パンチはあかんか」


 俺はあわてて拳を引っ込めた。ザックにのせられて、ホイホイ殴らなくてよかったあ。


「じゃあ、この地面を掘って、出てきた亀の甲羅?に向かって魔剣を振り下ろせば」

「それも過去に何度か試されていることだ。いずれの攻撃もベルガドには何の効果もなかったらしい。ベルガドの休眠をさまたげることすらできずにな。まあ、お前の強さならまた違う結果になるかもしれないが、逆に島そのものを破壊することにもなりかねない。その方法はやめておいたほうがいいだろう」

「そうだなあ。亀を目覚めさせる前に永眠させたら意味ないしな」


 そもそも、俺はそのベルガドとやらから祝福を受けたいのに、寝ているところを攻撃してもアカン気がする。そんな無礼な奴相手に祝福与える気にならんだろ、普通は。


「じゃあ、まずは穏便に亀を目覚めさせる方法を探す必要がありそうだな」


 再び遺跡に向かって歩き出しながら俺はつぶやいた。

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