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246 ベルガドの熱い夜

 ドクオイルカに精神攻撃を食らった生徒たちは、直後は暗い顔のまま半角カナで「マンドクセ」とつぶやくばかりだったが、やがてすぐに回復した。結局、ドクオイルカの群れは一名の犠牲者が出たのみで、無事壊滅させることができた。


 唯一の犠牲者というのはリュクサンドールだ。やつは、体当たり攻撃を食らったダメージはすぐ回復したのだが、その後、特に援護の必要もないのにドクオイルカの一体に始原の観測者アビスゲイザー・ケイオスをぶっぱなし、血反吐をはいて倒れたのだ。


 やつ自身が言うには、昼間の魔力が貧弱な状態で魔力消費の激しい術を使った結果らしかった。魔力のゲージは別枠なのか、普通に体にダメージを食らった時と違って、すぐに復活しなかった。ずっとぐったりしたままだった。夜までこのままらしかった。


 そして、にもかかわらず、


「み、見ました? 僕の呪術、始原の観測者アビスゲイザー・ケイオスが、生徒たちを守って……ぐふぅ!」


 などと、やつは意味不明に誇らしげだった。呪術を生徒たちの前で使えたことが何よりうれしいようだった。もうなんなのコイツ。


 その後、俺たちは急遽水泳実習を切り上げホテルに帰ることになったが、それを持って帰るも邪魔くさいので浜に置いたままにしておいた。ただ、そのまま放置というのもさすがにかわいそうかなと思ったので、日陰に移し、首から下を砂に埋めてやった。何かの治療のためのおまじないだったはずだ。「おまじない」は、漢字で「お呪い」と書くし、呪術オタにはぴったりだろう。


 ホテルに戻ってからはしばらくヒマだったので、フィーオに俺たちの今後の話をしてみた。


 しかし、


「えー、修学旅行楽しいのに抜け出すの? そんなのやだー!」


 と、あっさり同行を断られてしまった。こいつとはここでおさらばか。まあ、こいつは勉強のこと以外は特に問題なさそうだし、モメモでガテン系のバイトでもやりながら学園生活を続けていけるだろう。


 その後、エリーにも今後の話をしてみた。


「そうかい、あんたはともかく、あのユリィって子は有望そうなのに、もう指導できなくなるのは残念だね」


 俺はともかく、ですって! ひどいよ、ババア。


「まあ、一応は休学扱いにしといてやるから、呪いとやらが解けてヒマなら戻っておいで。せっかく高い金払って編入したんだ。どうせならしっかり勉強して卒業しといたほうが得だろ?」

「そうだな」


 確かに呪いが解けたらやることなさそうだしな。魔法も勉強したいし。エリーの気づかいに感謝した。


 やがて、日は暮れ、夕食の時間になった。俺たちはホテルの大広間でいっせいに食事をとった。特別扱いの俺も一緒のメシだ。安心した。スイートルームで一人で豪華な飯を食わされることがなくてよかったあ。やっぱり修学旅行なんだから、みんなで楽しく食べたいよね! 今夜で学園生活終わりなんだしさ。


 食事が終わると、その大広間のステージでそのまま、地元のダンサーたちによるベルガドの伝統芸能が披露された。ただ、伝統芸能と言っても、俺の予想とはだいぶ異なっていた……。


「勇者様、見てるー?」

「いえーい!」

「ベルガドの夜をいっぱい楽しんでねー!」


 と、俺に向かって叫びながら踊る娘たちは、いずれも露出度高めのぴちぴちの皮のドレスを着ていた。しかも、踊りはまさかのポールダンスだった。なぜこの世界にそんな踊りが存在するのか。


 しかもしかも、伝説の勇者様でVIP待遇の俺は、みんなとは違う特等席に座らされてそれを見せられた。そう、丸い板の中心に席があり、俺がそこに座り、その円周上で娘たちが並んで踊っている。それを少し離れたところでみんなが見ている。何この羞恥プレイ。一人だけこんな席に座らされるとか、恥ずかしすぎるんですけど!


 さらに、俺の座っているその席……ゆっくり回転しやがった。


「どうです、素晴らしい仕掛けでしょう、勇者様! これなら、座ったまますべての娘たちの踊りを楽しむことができますよ!」


 支配人のじじいは得意げだった。いや、素晴らしいどころか、晒しものすぎるんですけど! ポールダンスする娘たちの中心で回転し続ける俺って、どんだけシュールな光景なの!


「回転する勇者とは、なかなか面白い見世物だね」


 と、近くでエリーが失笑しながら言うのが聞こえた。みんなも、俺を見て半笑いしているようだ。くそう、くそう! なぜ学園生活最後の夜にこんな辱めを受けなくちゃいけないんだ、俺は!

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