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228 お父さんは心配性

「うおっ、なんだお前たちのその恰好は!」


 ルーシアの父、カセラは、部屋に入るなり、全裸の男と下着姿の妹を見てひどく驚いたようだった。年齢は五十代ぐらいだろうか。ルーシアによく似た端正な顔立ちをしており、金髪の長い髪を後ろで一つにまとめていて、長身でがっしりした体つきをしている。


「お前まさか、すでにその男と関係を――」

「はい。私はすでに彼にこの身をささげています」


 ルーシアはドきっぱりと言い切る。いや、お前、吸血されただけだろ。つか、ちょっと前にもまったく同じやり取りを見たぞ、おい?


「な、なんということだ! 私の愛娘がこんな邪悪で間抜けそうな男の手にすでに落ちているとは! ファリエより飛竜を飛ばして駆けつけてきたが、一足遅かったか!」


 カセラは憤怒で歯ぎしりしながら、リュクサンドールをにらんだ。


「勇者様、ファリエというのは、このモメモより東に100kmほど離れたところにある、ラッシュフォルテ家の領地でございますわ」


 と、メイド長が俺に説明してくれた。東に100kmて。そんな遠くから舞い戻ってきたのかよ、このおっさん。娘心配しすぎだろ。


「あ、『愛娘』って言ってますし、もしかしてあなたは、ルーシア君のお父さんですか? はじめまして。僕はドノヴォン国立学院一年四組担当の教師、リュクサンドール・ヴァン・フォーダムです。専攻は呪術です。優秀なルーシア君には日ごろからお世話になっております。どうぞよろしくお願いします」


 何一つ空気を読んでいない全裸の男がカセラにのん気に自己紹介しはじめたが、


「はっ! お世話になっております、だとう! そ、それはつまり、アレか! 貴様が堂々と晒しているソレの世話のことかっ! お前は日ごろからそっちの世話をルーシアにさせているということかあっ!」


 誤解のあまり、下品極まりない解釈をしちゃうカセラだった。この親父、息子以上の勘違い野郎だな。まあ、似たもの親子とも言えるか。


「教師という立場を利用して、純情なルーシアにそのようなモノの世話をさせるとは、なんという卑劣で汚らわしい男! もはや貴様を生かしておくことなどできぬ! このラッシュフォルテ家に代々伝わる魔剣のサビにしてくれるっ!」


 と、カセラは腰にさしていた剣を抜いた。お、あのおっさん魔剣持ってるのか。それならあの間抜けレジェンドも余裕で斬れるか?


「はあああっ! 死ねええっ!」


 カセラはその魔剣を目の前の全裸男に振り下ろした!


 直後――それは物理障壁に当たって、砕けてしまった。


「ぬおおおっ! このラッシュフォルテ家に代々伝わる魔剣がこうもあっさり砕けてしまうとはああっ!」


 とたんに顔面蒼白になるおっさんだった。まあ、あいつ一応ロイヤルクラスだし、それなりにバリアは固いはずか。確か、同じロイヤルのバジリスク・クイーンのバリアも、ジオルゥの親父の魔剣単体では破れなかったしな。


「こ、こうなったら、我がラッシュフォルテ家に代々伝わる必殺浄化魔法、永劫浄化獄炎エターナルフォースブレイズを使うしか――」

「いえ、実は父上、その魔法はすでに私が使っておりまして」


 レクスが取り乱しまくっている父親に言った。


「その結果が、あちらになります」


 レクスは全裸のリュクサンドールを指さす。


「結果って……やつはあの通りピンピンしておるではないか! なーにが必殺浄化魔法だ! てんで役立たずではないかっ!」


 と、セルフツッコミでガチ切れし、その場にがっくりと膝を落とすカセラだった。いくらロイヤルクラスが相手とはいえ、さっきからこの親子、ダメダメすぎるだろ……。


「くうう……。せめて魔剣があれば! あの邪悪な男を斬れる素晴らしい魔剣があれば……!」


 しまいにはカセラは負け惜しみのようにでかい声で言い始めた。いや、たぶん魔剣あっても、そいつは倒せないと思うんですけどー?


 と、そこで、


「ああ、ルーシア君のお父さんは魔剣がなくて困ってるんですか? それだったらきっと、トモキ君に言えば、何とかしてくれますよ。トモキ君はなんせ伝説の勇者様ですし、ちょうどこの家に来ているはずですからね」


 やはりまるで状況が飲み込めてなさそうな全裸の男がカセラに言った。よりによって、なぜここで急に俺に話を振るんだ、この男は。


「おお、そういえば、そういう話であったな! 確かに伝説の勇者様なら、魔剣をお持ちのはず! というか、伝説の勇者様にお頼みすれば、この邪悪な男も成敗していただけるはず!」

「そうですね! それが一番です、父上!」


 案の定、俺にすべてを丸投げする気マンマンの二人だった……。


「勇者様、お二人がお呼びです」


 と、メイド長も俺にささやく。


「ちょっと待てよ。なんで俺があいつらの代わりにあの男を倒さないといけないんだ?」


 つか、一度倒したし。ぶっちゃけもう二度と戦いたくない相手だし!


「トモキ、ここでお前が出て行かないと、どのみち二人はお前を探しに来るのではないか?」


 と、ヤギも俺に言う。まあ、確かにもっともな話だな。俺がこの家に来てるってことはバレてるし。


「しゃーねーな」


 俺は即座に庭に飛び降り、屋敷に駆け込んだ。


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