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227 お兄ちゃんは心配性 Part 3

「こ、これは!」


 周りに広がる純黒に、レクスはおろおろしているようだ。黒い、絶対に黒い! さながらベンタブラックか、カタカケフウチョウの雄の羽の色くらいのピュアな暗黒だ。


 もちろん、その効果時間の短さはユリィの時と同様だった。直後、魔占球はぱりんと割れ、俺たちは元の世界に戻っていた。


「貴様、こんなにも濃厚で強大な闇を秘めているとは……何者だっ!」

「え? さっき自己紹介したじゃないですか。僕の名前はリュクサンドール・ヴァン――」

「ちがう! そうじゃない! なんで貴様のような闇の権化が学院で教鞭をふるっているのだ! おかしいではないか!」


 あ、やっとその基本的な質問をするんだ。


「今のお仕事は陛下に紹介されたんですよ」

「陛下じきじきに?」

「はい。陛下はおやさしいお方ですからね」


 リュクサンドール(全裸)はにこやかに言うが、


「へ、陛下とそんなにも親しい間柄なのか……」


 レクスは愕然としているようだ。


「もしかして、貴様、陛下とは気軽に会える立場なのか?」

「そうですね。だいたい週に二回くらいは顔を合わせてますね」

「そんなに!」


 レクスはまたしても驚いているが……単に学校で顔を会わせているだけだろ。あいつ、生徒のふりして学校に通ってるからな。


「き、貴様、もしや、とてつもない大物か……」


 レクスはその場に膝を落とし、がっくりとうなだれた。


「貴様がどれだけ邪悪だろうと、社会的にそのように盤石な立場だと、もはや私には貴様から妹を守ることなどできない! 物理攻撃はもちろん、必殺の魔法攻撃すら効かなかったのだし!」

「あ、その魔法なんですが、なんか今になってちょっと効いてきたみたいなんですよ」

「え!」

「実は僕、さっきまでお酒を飲んでいて酔っていたんですけど、レクスさんの青い光の魔法使われた後は、酔いが抜けてしまったみたいんです。すごい効果ですねー」

「わ、私の魔法は、アルコールを火で飛ばす調理法ではない!」


 レクスはガチギレしたようだった。うん、確かに、お前の必殺魔法でフランベされちゃったわー(笑)って言われたら、誰だってそういう反応になっちゃうよね。つか、さっきから全裸のくせに、堂々としすぎだろリュクサンドール。お前としては内臓ポロリじゃなかったら恥ずかしくないのかもしれんが、せめて何かで隠せよ。


 と、そのとき、屋敷の門のあたりから、「うおおおおおっ!」という男の叫び声が聞こえてきた。ちらっとそっちのほうに振り返ってみると、ちょうど一人の中年男が、庭の片隅に飛竜で舞い降りたところのようだった。男は飛竜の背から飛び降りると、ものすごい速さで屋敷のほうに走っていく。誰だろう、高そうなマントに身を包んだ金髪の中年男のようだが…。


「あちらはこのラッシュフォルテ家のご当主であらせられる、ルーシア様のお父上、カセラ様ですわ」


 メイド長が教えてくれた。なるほど、あいつの親父も家に帰ってきたところなのか。


「でもなんで、あんな叫びながら全速力で屋敷に突入してるんだ? あいつもうんこ漏らしそうなのかよ」

「カセラ様にもすでに魔法の通信でこちらの状況をお伝えしていますから」

「え、こちらの状況って」

「レクス様があのように討ち死にされた以上、ルーシア様をお止めできるのは、もはやカセラ様だけですわ」


 と、メイド長が言ったとたん、俺たちがのぞいている部屋の中にその男が突入してきたようだった。


 そして、


「ルーシアッ! 私のいない間に邪悪な男を家に引き入れ、ちんちんかもかもしているそうだな! どういうことだ! あとなんか伝説の勇者も来てるらしいがそれはどうでもいい!」


 と叫びながら、破壊された扉をまたいで部屋にずかずかと入ってくる、金髪碧眼の中年男であった。

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