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213 勇者とイケメン

 二人の姿は、俺が待機していた場所とは反対側の校舎裏の、人気のない場所で発見することができた。俺が近くまで来た時、ちょうど二人は向かい合って、何か話し始めるところのようだった。


 やはり告白なんだろうか。それとも違う話? 俺はすぐに近くの植え込みの陰に隠れ、まずは様子をうかがうことにした。経験上、早とちりで行動するのは非常によくないし。人として軽くブレーキ壊れてるらしいからな、俺。


 最初に口を開いたのはやはりイケメンのほうだった。


「あ、あのう、はじめまして。ユリィさん。俺の名前はジルフォードといいます。この学院の三年二組の生徒です」


 と、照れながら自己紹介する男、ジルフォードだった。はにかむ顔も普通にイケメンだ。死ね。


「それで、その……ユリィさんにお尋ねしたいことがあるんですけど、同じクラスの、トモキ・ニノミヤ君こと、勇者アルドレイ様とあなたは、いったいどういう関係なのですか?」


 キター! 告白の前振りみたいな質問キタコレ!


「どういう関係って……その……トモキさ、んとはよいお友達です……」


 そしてその質問に、ユリィはたどたどしい口調でこう答えるだけだった。


 うーん、「よいお友達」か。確かに、俺たちは今はそういう関係であってるだろう。しかし、この状況ならもっと強い言葉が必要だったんじゃないか、ユリィ? 俺はますます落ち着かなくなってきた。相手はなんせ、ほら、イケメンだし?


「ああ、そうでしょうね! アルドレイ様はあのユニ彦にお乗りになることができたお方! ユリィさんとは良好な関係であれ、恋人同士とまではいかないのでしょうね!」


 クソがッ! ジルフォードのやつ、どさくさにユニ彦騎乗で証明された俺のハイパー清らかさをほじくり返してきやがった! 確かに理屈は通ってるけどさあ、ユリィの前でそういうこと言うの、やめてよ! 恥ずかしいじゃないの!


「しかし、ユリィさんのようなかわいらしい女の子と一緒にいながら、アルドレイ様はまたずいぶんオクテなんですね」


 と、油断していると、ジルフォードがいきなりユリィを口説きにきやがった。


 やべえ! こんなイケメンに正面から「かわいい」とか言われた日には、ユリィはときめいてしまう! なんせ、ユリィってば超ちょろいからな!


 ……と、俺は一瞬焦ったわけだったが、


「いえ、そんなことはないと思います」


 ユリィは気まずそうに目を伏せ、首を振るだけだった。あれ? 思ってたのとリアクション違わない? あんなイケメンにかわいいって言われたのに、発情したメスの顔してない?


「ジルフォードさん、わたしのことを褒めてくれてありがとうございます。でも、わたしと、トモキさんに今恋人がいないということは、全然関係ないと思います。わたし、知ってるんです。詳しくは言えませんけど、トモキさんは今すごく大変な問題を抱えていて、誰かとお付き合いできるような状態じゃないんです」


 おおおっ! ユリィ、お前ってやつは、そんなにも俺を深く理解し、清らかな俺の名誉を守ってくれるのか! 俺はその力強い説明に感動した。そうだよ、呪いさえなければ、俺はもうとっくの昔にお前とイチャイチャしてるよ!


「アルドレイ様が今、何かすごく大変な問題を抱えて? それは公になっていないことですよね? 僕も初めて聞きました。つまり、それを知っているということは、ユリィさんはやはり、アルドレイ様とは特別な関係なのでは?」

「え、いや、そんなことは……」


 ユリィはたちまち顔を赤くして首を振った。


 そして、


「わ、わたしだけが知っているって話でもないんです。このことは、リュクサンドール先生もご存じのはずです」


 と、言い訳のように早口で言った。


「よりによって、あのリュクサンドール先生ですか? 彼は確か、呪術のこと以外はまったく頼りにならないという評判の方ですよね? つまり、アルドレイ様の抱えている問題とは、呪術がらみのこと――」

「ち、ちがいます! ないしょです! そこは詳しく話しちゃだめなんです!」


 ユリィはとたんにおろおろしたようだった。その顔がますます赤くなった。


 うう、かわいいな。うっかりさんのユリィに俺の秘密ばらされちゃったけど、たいしたことでもないし、かわいいからいいや、えへへ……。


「なるほど。彼はあの、呪術に関してだけは異常に能力を発揮するリュクサンドール先生をもってしても、決して解くことのできない悪質な呪いにかかっているのですね」

「い、いや、あの……」

「ああ、もちろんわかっていますよ。僕はこのことを誰かに言いふらすつもりはありません! なんせ、僕がずっと憧れていた伝説の勇者様の風評にかかわることですからね!」


 と、ジルフォードは何やら目を輝かせて熱く語るのだった。


 そして、


「ただ、その、口止め料というわけではないのですが、せっかくですし僕のささやかな頼みを聞いてもらえれば……」


 と、また何やら照れながら、懐から一冊の本を取り出すジルフォードだった。なんだろう? 目を凝らしてその表紙を見てみると、タイトルは「悲壮列伝! 勇者アルドレイの記録!」とある……って、もしかしてこれ、俺のファンブックか?

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