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212 勇者は今日も元気です

新章スタートですが、しばらくは本筋とは関係ない日常エピソードが続きます。

ちゃんと亀には行きます。

 さて、ユニ彦でモメモの街を駆け回った後、俺はようやく女帝様から解放され、寄宿舎に戻ることができた。翌日からはまた学園生活のスタートだ。


 まあ当然、平穏な、とは言い難いわけだったが……。


 寄宿舎の自分の部屋にいる間はともかく、それ以外の時は俺は常に他の誰かにアルドレイアルドレイとからまれることになった。うっとうしいこと、この上ない。


 ただ、それでも俺は今は、学園生活を続けていたいのだった。修学旅行でベルガドに行きたいからだ。そう、修学旅行で。今の俺にはここの部分が非常に重要だった。修学旅行で!


 そもそも、完全に身バレした俺にとっては、ベルガドに行くことなどもう簡単なことなのだった。なんせ俺様、偉大なる勇者アルドレイ様なのだ。これは聖ドノヴォン帝国も認めていることだし、伝説の勇者様相手に三か月もかかる入国審査なんか必要あるはずもないだろう? つまり、俺が行くって言えば、ベルガド政府とやらも即座に受け入れてくれるってことよ?


 しかも女帝様にもじきじきに、


「トモキ君って、ベルガド行きたいんでしょ? だったら、ファニファのほうですぐに行けるように手配してあげるよー」


 って言われたし。そう、もはや俺にとってベルガドという場所は近所のコンビニぐらいのものだった。行こうと思えばすぐ行ける場所。


 ただ、だからといって、この俺がすぐに行くと思ったら大間違いだ、ベルガド!


 なんせ俺はもう知ってしまったのだ。この学院で予定されている修学旅行。そのスケジュールを……。


 そう、ドノヴォン国立学院の修学旅行の初日には、ベルガドで水泳実習が予定されているのだっ! 水泳実習、なんと甘美な響きだろうか!


 つまり、修学旅行ではユリィの水着姿が見れるんだ。これは絶対に見逃せないイベント!


 それに、水泳の授業というと、現代日本の学校では極めてありふれたものが、それはまさに現代日本だけの話なのだ。同じ地球でも、日本以外の国では学校で水泳を教えないところのほうが多いのだ。学校にプールがなかったりな。


 そして、このルーンブリーデルにおいても、やはりそれは同じだ。基本的に学校にはプールがないし、学校では水泳は教えない。この世界で泳ぎを習得できるのは、海の近くで暮らしている人々か、家にプールがある貴族様だけなのだ。


 つまりこの機会を逃すと、俺は水着姿のユリィと一緒に楽しく水泳の授業を受けることはできなくなってしまう。永遠に。そんなの許されるわけないだろう。なんのために高い学費払って編入したっていうんだ! 呪いのことはそりゃ心配だが、予定を一か月弱ぐらい先伸ばしてもたぶん大丈夫だろう? うん、そうに決まってる。今までだってなんとかなったし、これからもなんとかなるだろー。


 というわけで、勇者バレしたあとも、俺は当初の予定通り一か月は学園生活を続けて修学旅行でベルガドに行くことにしたのだった。そう、俺の青春アオハルラブコメ学園生活はこれからだ!


 ……まあ、それはいいのだが。


 勇者バレしてから、俺は学院でも常に誰かにつきまとわれることになったわけで、ユリィと二人きりで過ごす時間がまるでとれなくなってしまった。これは非常にゆゆしき事態だ。これじゃなんのための学園生活だかわかりゃしねえ。


 そこで俺は、思い切って寄宿舎の部屋で、ルームメイトのヤギに相談してみた。


「……なるほど。では、放課後、ユリィが理事長室を出たところで話しかけるのはどうだろう?」


 と、ヤギは俺の頭の上で答えた。もうなんか、こいつは部屋にいる時間の大半は俺の頭の上にいる気がする。


「放課後に理事長室って……ああそうか、あいつエリーに魔法の個人指導受けてるんだっけ」


 つまりそれを「出待ち」すればいいってことか。


「トモキ、お前の身体能力ならば、放課後どれだけ他の生徒たちにからまれても、それらを撒いて一人になるのはたやすいだろう」

「あ、言われてみればそうだな? あいつらからダッシュで逃げれば、俺余裕で一人になれるな」


 みんな俺のことを超ちやほやしてくるもんだから、俺も今まで律義に相手してたけど、よく考えたら相手にする必要なかったわー。俺にとっては、ユリィ以外どうでもいい学園生活なんだしさ。


 というわけで、俺は早速その翌日の放課後、その方法を実践してみたのだった。


 結論から言うと、一人になって理事長室から出てくるユリィを「出待ち」するところまでは問題なくできた。待ち伏せ場所として選んだのは、校舎の中庭にある木陰だった。そこからは、理事長室への人の出入りが窓越しに確認できたのだ。少し前に、理事長室にユリィが入っていくのも確認済みだ。


 よし、あとは、エリーの個人レッスンが終わるのを待って……。俺は木陰で気配を殺しながらユリィが出てくるのをじっと待った。


 そして、約一時間後、ユリィはようやく廊下に出てきた。よし、今なら久しぶりに二人っきりで話ができるぞ! すぐに木陰から出て窓のほうに近づいた。


 だが、俺が外からユリィに声をかける直前、


「君! ちょっといいかな!」


 と、ユリィのほうに走ってくる人影があった。男子だが、うちのクラスの生徒じゃなさそうだ。なんだろう? とっさに木陰に隠れなおした。


「わたしに何か用ですか?」


 ユリィも不思議そうに首をかしげている。


「じ、実は君に聞いてほしい話があって……」


 謎の男子はユリィと目が合うと、ぽっと顔を赤らめて、急に歯切れの悪い口調になった。よく見ると相当なイケメンだ。背はそこまで高くないが、金髪碧眼、細身でスタイルはよく、制服の着こなしもぱりっとしていて、実に様になっている……って、そんなやつが、一体何の目的で俺のユリィに近づいて?


「話ってなんですか?」

「こ、ここじゃ、誰かに聞かれるかもしれないし、ちょっと場所を変えてもいいかな?」

「はあ、いいですけど」


 二人はそのまま廊下の向こうへ歩いて行ってしまった。


 って、なんじゃそりゃあっ! このシチュエーションどう考えたって、あれだろ! 一つしかねーだろ!


 そう……、


「ユリィちゃん、あの男子に告白されちゃうんだねー」


 そうそう、それそれ! って、この声は!


「ちょ……お前、いつのまに!」


 俺は突然俺の背後にわいて現れたらしい、ロリババア女帝の存在にぎょっとした。前みたいに転送魔法を使ったんだろうか。


「ファニファのことなんて、今はどうでもいいんじゃない? はやくユリィちゃんたちを追いかけないと」

「ああ、そうだな!」


 あんなイケメンに告白なんかさせるもんか! 俺はすぐに二人が去って行ったほうに走った。

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