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211 清らか勇者の栄光(2章エピローグ)

 その後、王宮では宴がもよおされ、俺はモメモに集まっていた貴族たちに引っ張りだこになった。そう、レーナの時と全く同じ展開だ。勇者アルドレイの名前に群がってくる連中を適当にあしらうだけのお仕事だ。まじうざい。しかもあのときと違ってユリィがいないし。女帝様にこっそり文句を言ってやろうと思っても、人が多くて全然二人きりになれないし。


 やがて、昼過ぎになって宴は終わり、俺はようやく帰宅できると思ったわけだが……、どうやら俺の仕事はまだ終わりではなかったようだ。


「勇者アルドレイ様、こちらをどうぞ」


 と、王宮の中庭で女帝様が俺に差し出してきたのは、女帝様専用の馬のユニコーンだった。そう、ユニ彦とかいう適当な名前のやつだ。それが、女帝様が命令すると同時に、飼育係?の女に連れられ、俺のすぐ目の前にやってきたのだった。


 清らかな処女にしか気を許さないという伝説があるはずのその馬は、しかし相変わらず俺のことは妙に気に入っている様子だった。俺の前に来るやいやな、さかんに首を伸ばし、まとわりついてきた。


「これを俺にどうしろって言うんですか? 馬刺しにして食えってことですか?」

「まあ、面白いことをおっしゃられるのね。ユニコーンのお肉は、食用には向きませんことよ」


 女帝様はホホホと優雅に笑って、俺にマジレスした。


「ユニ彦はわたくし専用の馬ですが、大変あなた様のことを気に入っているようなのです。なので、あなた様にぜひ乗っていただきたいと」

「え、ユニコーンに乗るの?」


 俺が? 男なのに?


「ユニ彦に乗っていただいた後は、そのままモメモの街を回っていただいて、集まっている多くの国民たちに勇者様の雄々しいお姿をお見せください」

「え」

「さあ、どうぞ!」


 と、そこで女帝様のおつきの近衛兵たちが俺の背中に豪華なマントをつけて、足にも拍車をつけやがった。恐ろしいはやさで。そして、女帝様と一緒に「さあ! さあ!」と、俺を囲んで、ひたすらユニ彦に乗るよううながした。乗らないと、ここからは帰してもらえなさそうな雰囲気だ……。


「……わかったよ! ようはこれで街を一周すればいいんだろ!」


 めんどくさいので、そのまま目の前の馬に飛び乗った。これで今日の俺のお仕事は終わりみたいだしな。


 ただ、


「おお、清らかな陛下にしか背中を許さないユニ彦に、あんなに軽々とお乗りになって!」

「さすが勇者様、なんと清らかなのだろう!」

「まさに清らかさの化身のようなお方だ!」


 俺がユニ彦に乗ったとたん、周りがギャーギャーうるさく騒ぎやがった。くそが! 俺だって、別に好きで清らかやってんじゃねえぞ!


「……せっかくですし、わたくしもご一緒しますわ」


 と、さらに女帝様も近くの近衛兵の手を借りて、俺の後ろにひょいと乗りやがった。まあ、もうなんでもいいか。俺はそのまま、王宮の門から街のほうへ出た。


 通りに出てみると、言われた通りすでに多くの群衆が勇者アルドレイ様を見に集まってきているようだった。タチの悪い病気がはやってるのに、なぜこいつらは思いっきり密になってるのか、バカなのか。一応、他人の肌に触れなければオッケーらしいけどさあ。


「うわあ、トモキ君、やっぱりすごい人気だねー」


 と、ユニ彦の手綱を握っていると、背後から女帝様の声が聞こえた。こいつはもういつもの口調か。


「お前、いきなり俺の正体バラしてどういうつもりだよ?」


 小声で尋ねてみた。


「まさか、俺を政治利用しようとか考えてるのか?」

「あ、そっか。トモキ君超強いから、味方にしたらロザンヌとか他の国へのけん制になるよね! せっかくだし、このまま利用しちゃおっかー」


 女帝様はそういうつもりじゃなさそうな口ぶりだ。まあ、実際の腹の中は知らんが。


「じゃあ、何考えて、俺をこんな見世物にしたんだよ?」

「もちろん、トモキ君のためだよ。だって、トモキ君って、いったんハリセン仮面ってことで捕まったのに、普通に冤罪だったから釈放ってだけじゃ、なんだか嘘くさいでしょ? だから、ハリセン仮面と間違えられてもおかしくないような、すごーく強い勇者アルドレイだったってバラしちゃえば、みんな納得すると思ったの」

「お、俺は納得しないんだが!」

「いいじゃない。本当のことなんだから」


 女帝様は楽しそうに笑う。くそ、こいつ俺のことオモチャにして遊んでるだけだろ!


「つか、お前そのアルドレイ様をぶち殺そうとしてたくせに、よくそんなこと言えるよな?」

「えー、本当に伝説の勇者様なら、サンディー先生ぐらい簡単に倒せるって、ファニファは最初から思ってたよ?」

「あれが簡単に倒せるわけねえだろ!」


 俺の攻撃ほぼ全部無効でしたやん! 相手の魔法攻撃力もバカ高いしさあ!


「お前、もしかして俺の魔剣にユリィの魔法が残ってたこと、最初から知ってたんじゃねえだろうな?」

「まっさかー、そんなのわかるわけないじゃん? 何日も前にちょっと練習しただけの魔法だよ?」

「じゃあ、何を根拠に俺の勝利を信じて……?」

「だって、トモキ君は伝説の勇者様だもん。伝説の勇者様は、何があっても絶対に負けないんだもん!」

「……なんだよ、それ」


 その子供じみた声と答えに、俺は思わず笑ってしまった。


 まあ、いっか。本当のところどういうつもりだったかは知らんが、俺は実際あいつに勝てたし、処刑もまぬがれた。結果オーライだ。


 やがて、周りの群衆の中に、見慣れた赤い制服を着た集団がいるのに気づいた。そう、ドノヴォン国立学院の生徒たちだ。こいつらも、俺の雄姿?を見に集まって来ていたのか。


「わあ、本当にトモキ君、陛下と一緒にユニコーンに乗ってる!」

「ユニコーンに乗れるってことは、すごく清らかなんだね、トモキ君!」

「そりゃあ、伝説の勇者様だもん、超清らかに決まってるよ!」


 って、なんか妙に小っ恥ずかしいこと言いやがってるんだが!


「うぷぷー、トモキ君ってば、みんなに清らかって言われてるー。やーいやーい、清らか太郎!」


 後ろから女帝様が煽ってくるし!


「うっせーな! 俺はそのうち清らかじゃなくなるからいいんだよ!」


 そうだ、忌まわしい呪いを解いて、俺はあいつと一緒に幸せになるんだ! この身に染みついた清らかさを捨てて!


「おおおっ! 今に見てろよ、お前らっ!」


 俺はユニ彦の手綱を握りしめ、モメモの街を駆け回った。

 2章完結です! ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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