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強くなっていく魔物


 私たちの前に現れた魔物達は、ラスティライズさんの容姿なのは変わりませんが、それに服が着せられています。服は灰色で、簡単なワンピースのような形をしています。無機質な粘土のように見えますが、布のようにヒラヒラとしていて動きに合わせてちゃんとシワも出来るのが不思議です。

 更に、彼女たちの肌がなめらかな物となり、これまでの作り物っぽさがなくなって人間に近づいているように見えます。

 加えて、その表情……。これまではそれぞれの個体で、別々の感情を顔に表していた彼女達ですが、私たちを出迎えた彼女たちの表情は、無。


「ふふふ」


 だけど、私たちを見ると一斉に笑いかけて来ました。その表情も自然でなめらかな物となっており、まるで人の女の子に微笑まれたかのような、そんな錯覚に陥ります。


「え、エイミさん。凄い数だ。それに、これまでの敵とは違う……!」


 ミコトさんは敵の数に怯みながらも、弓を構えて戦う意思を示しています。


「気を付けてくださいねー。このグリムダストは、完璧に近いグリムダストです。奥へ行けば行くほど、人に近づき、その代わりに世界を支配する完璧なる魔物になっていくでしょう。その強さも段々とレベルアップしていくので、油断していると痛い目を見る事になりますよー」

「来ます!気を付けてください!」


 ラスティライズさんが、こちらに向き直ってそう忠告してきた所で魔物達が一斉に動き出しました。彼女たちは手にした武器で、殺意をむき出しにしてこちらに走って向かってきます。

 ところで、彼女たちが手にしている武器ですが、それが手を変化させて作られた武器ではなくなっています。手で掴んで扱っているその武器は、身体から分離されて作られた物です。

 剣や、槍など……武器と呼ばれる代表的な物を手にした彼女達は本当に人間そのもののように見えて、これはこれで逆に、前よりも更に不気味さを増して近づいてきます。


「階段まで下がります!急いでください!……ラスティライズさん!」

「……」


 魔物達に背を向けているラスティライズさんの名前を、私は叫びました。あの数に襲い掛かられたら、ひとたまりもありません。ここは一時撤退して、狭い階段におびき寄せるために私たちは踵を返しました。

 私の指示通りに動いたサクラとミコトさんですが、しかしラスティライズさんは動いてくれません。何を呑気にしているんですか。ここで貴女を失ってしまったら、私たちの案内役がいなくなってしまうじゃないですか。


「私の事は、お気になさらず。この階層で、のんびりと貴女達を待っていますので。だから……死なないように頑張ってくださいね」


 そう言ったラスティライズさんの横を、魔物が通り過ぎて私たちの方へと向かってきました。魔物はまるでそこにラスティライズさんがいないかのように、気にする素振りも見せません。

 その姿が魔物の物とはいえ、彼女は異形です。それを無視するとは、やはりこの魔物達に知性は感じられませんね。見てくれだけはどんどん美しくなっていきますが、中身はやはり無機物のようです。そんなものが世界を支配するとか、申し訳ないですけどごめん被りたい所です。


「エイミさん!」


 サクラに呼ばれるのと同時に、私も2人を追って駆けだしました。


「炎の精霊よ。私に力を貸してくれ……」


 出遅れた私を援護してくれたのは、ミコトさんです。私達を追って来た魔物に向かい、炎の矢を放ってくれました。それは魔物達の先頭を走ってきた魔物の顔面に命中し、爆発。火炎と煙と爆風を巻き起こし、一時的に視界が遮られました。

 それも一瞬の事で、煙の中からそんなのにはお構いなしに、魔物達が現れて追いかけて来ます。でも、一瞬だけでも助かりました。私はサクラとミコトさんに追いつくと、3人で駆けて階段へと向かいます。


「階段まで下がって、どうするつもりだ!?」

「アレの実力は、先ほどまでの魔物とは違います。囲まれたらどうなるか分かりません。なので狭い階段に誘い込み、そこで囲まれないように戦います」

「な、なるほど……!一瞬でそんな事を思いつくなんて、さすがだな!」

「褒めるのは後で私を膝枕しながらにして、今は集中して走ってください!ミコトさんは階段の上から援護を!サクラはミコトさんの護衛です!」


 私は共に走る2人に発破をかけながら走り、やがて階段へと辿り着くと階段の中腹当たりで立ち止まりました。そして駆けのぼる2人を見送ってから、振り返り追いかけて来る魔物達を睨みつけます。


「ふふふ」


 そこには、相変わらず微笑んでいる魔物達の姿があります。たくさん続いていますが、でも狭い階段という事もあり、彼女達は2列になって上って来ます。

 私はゆっくりと剣を抜くと、剣を構えて彼女達を待ち構えました。

 すると、その動きを見ていた魔物達が無表情になって急に立ち止まりました。一斉に立ち止まった魔物達ですが、しかしすぐに1体だけが動き出し、私に向かって突進して来ました。

 剣を手にした魔物は、人とは明らかに違う身体能力で階段を数段飛ばして上ってくると、剣で私に斬りかかって来ます。私の足元から斬り上げるようにして襲い掛かって来たその剣ですが、私は足に付けている脛当てで受け止めました。低く鈍い音が響き、足に衝撃が走ります。いくら脛当てをしているとはいえ、衝撃が伝わってちょっと痛いですね。でも、我慢できない程ではありません。


「──はっ!」


 足で剣を受け止めながら、私は自分よりも下段にいる魔物に向かって剣を振り下ろしました。

 しかしその剣は、空を切りました。魔物は突然その場に伏せて、私の剣をかわしたんです。それは、予想外でした。これまでの魔物は無理に私の攻撃を避けようとはしなかったので、この攻撃も当然当たるものだと、勝手に思っていたんです。というか、避けられるような体勢でもなかったはずです。その身体能力と、身体の柔らかさには驚きましたよ。

 でも、どうしましょう。剣を避けられたのはいいですが、よく見たら階段の下で待っていたはずの魔物がもう1体、こちらに突っ込んで来ています。槍を手にしている彼女はその矛先を私に向けていて、私を殺そうとしているようですね。


「伏せろ!」


 後方からミコトさんの声が聞こえました。どうやら階段の上に辿り着き、援護の準備が出来たようです。

 でもそれはできません。私の足を、私の剣を避けた魔物が掴んで動きを邪魔しているんです。伏せるくらいなら出来るかもしれませんが、でもその手にはしっかりと剣が握られています。ここでもし倒れでもしたら、剣で突き刺されて終わりですよ。

 ここは、自力でなんとかするしかなさそうです。そう判断した私は、向かってくる矛先を集中して睨みつけます。それがどんどん私に迫って来て、もうすぐ私の胸を貫こうかという時に、振りぬいていた剣の取っ手の部分で槍の先端部分を横から殴りつけて軌道を変えると、同時に身体も逸らしてかわしました。


「……!」


 私が避ける事に成功して、槍を持っていた魔物は驚きの表情を浮かべます。本当に、人間みたいな魔物ですね。

 その魔物に向かい、私は容赦なく剣を繰り出して胴体を斬りつけました。更に足元で私に斬りかかろうとしていた魔物の背中にも、剣を突き立てます。彼女達の服は切れましたが、やはり体の部分を傷つけた感触はありませんね。ただ、私の能力によって剣に触れたその場所から急激に腐食が始まり、2体とも塵へと変わっていきました。


「ふぅ」


 正直言って、いきなり大ピンチでした。なんとか切り抜けられましたが、一歩間違えたら死んでいる所です。

 どうやらこの魔物達、ラスティライズさんの言う通り能力が上がっているのは勿論の事ですが、連携プレイまでできるようになっているようです。


「大丈夫か、エイミさん!?」

「なんの問題ありません。そこで援護をお願いします」

「……任せてくれ」


 階段の一番上で弓を構えたミコトさんと、その傍にいるサクラが心配そうにこちらを見ていました。強がって、大ピンチだったのは隠して答えておきましたが、心臓の鼓動が早くなっています。

 鼓動を落ち着かせつつ正面を見ると、魔物はまだまだたくさんいます。次からは、油断せずに確実に行かなければいけませんね。


「うぅっ……!」


 そう思っていると、魔物達が突然悲し気な表情を浮かべ、泣き出しました。涙は出ていませんが、それはまるで私が殺した魔物を悼んでいるように見えて、とても滑稽です。


「ふっ」


 彼女達とは対照的に、私は笑ってしまいました。

 だって明らかに、ただ仲間が死んだ事に対して反射的に悲し気にしているだけなんですもん。そこに感情はなく、人間を真似て悲しみの表情を浮かべたようにしか見えません。

 外で、仲間の兵士が魔物に殺されたのを目にした兵士を思い出してください。感情とは、ああいう物を言うんです。この魔物の表情は徐々に人間に近づいてはいますが、やはりそれは偽物としか言いようがありません。本当に滑稽で、不気味です。


「ああああああ!」


 私に笑われたのが気に入らないのか、魔物達が叫んで今度は怒りの感情を露にしました。

 いえ、違いますね。仲間の死を悼んだら、次は仲間を殺した敵に対して怒る。私に笑われたからではなく、彼女達はただ人間の感情の定石をたどっているだけです。

 そこに、ミコトさんが放った炎の矢が飛んできました。私の横を通り過ぎた矢は、怒っている魔物の口に突き刺さって爆発。その顔を吹き飛ばしました。


「人間の真似事はよせ、気持ちが悪い!」


 ミコトさんが嫌悪感を隠さずに言い放つと、魔物が再び階段を駆け上がって来ます。今度は槍を手にした複数の魔物が猛然と突っ込んで来て、避ける範囲を狭めての攻撃を繰り出してきました。

 しかし、槍ですか。いいですね、槍。この状況では槍の方が戦いやすそうです。そう考えた私は階段を蹴って空を飛び、下段にいる魔物達の上を通り抜けました。慌てて槍を上に向けて私を串刺しにしようとした魔物ですが、ちょっと欲張って同時に上って来すぎですね。狭くて身動きが取れず、上空を通る私に上手く対処する事ができませんでした。オマケに、背後に着地した私に対しての対処も遅れます。

 私は着地すると、身動きがとりづらそうな彼女達の背中に斬りかかり、槍を手にした彼女達を一瞬にして殲滅しました。

 その際に、槍だけは回収させてもらいました。身体から分離されたその武器は、彼女達の身体の全てが塵と化す前に私が手にすると、腐食が止まったんです。これで新たに、魔物の槍を武器として手にする事ができました。それも、複数。

 私は手に入れた槍を手に握り、階段下にまだまだ残っている魔物の方を向きます。この狭い階段です。きっと、遠隔攻撃を避けるのは難しいですよね。


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