虐殺者
冗談は、これくらいにしておきましょう。私を囲んでいる兵士たちは、私に向かって明らかに敵意を持っています。
何故?どうして?やはり、リシルさんをグリムダストの出現した地に連れて来た事に、怒っているのでしょうか。そうだとしても、リシルさんの言っていた通り、国王自らお出迎えに来たのは驚きです。どうやらリシルさんは本当に、国王に大切にされているようですね。
「これはこれは。国王様自らグリムダストを攻略し終わったばかりのこの身を出迎えていただき、大変恐縮です」
「戯言はよせ。私の大切な娘を攫い、このような危険な地に連れ去った自分の行いを、まずは謝罪する気にはなれんのか?」
やはり、その事で怒っている……?いえ、そういう訳ではないでしょう。その辺はリシルさんが上手くやってくれるはずです。リシルさんが私の事を、国王が集めているタナトスの宝珠をどうにかする前のこのタイミングで裏切る可能性は低い。裏切るとしたら、もっと適切なタイミングで裏切るはずです。
「リシルさんについては、確かに勝手な行動をしたと思っています。大切なご息女が突然お城からいなくなり、さぞかしご心配した事でしょう。しかしながら、それはリシルさんのご意思によるものであり、私に非はなかったものと考えております。責められる道理はないかと」
「ふんっ……。娘からその話は聞いている。大方貴様と同じ事を言っていた。私個人としてはその事を貴様に問いたい所でもあるが、娘からの要望もある。その事を責めるのは一旦保留としよう」
リシルさんは本当に、裏切ってはいないようです。その事には安心しましたが、ではどうして国王は私に向かって剣を向けているのでしょう。
「では何故、自分に剣が向けられているのか分からない。そう言いたげだな、勇者エイミよ」
そんな私の心を見透かしてか、国王がそう言ってきました。分かっているのならさっさと教えればいいものを、この男は何をもったいぶっているのでしょうか。
「……ええ、残念ながら全く心当たりがないので、分かりません」
本当の事を言えば、グリムダストを攻略してもタナトスの宝珠を持ち帰らない私に対し、国王が疎ましく思っている事は分かっています。それだけでも私に剣を向ける理由にはなるでしょう。
しかしながらそれはあくまで公にできない私的な理由であり、客観的に見れば身勝手で横暴な理由となります。私は勇者としてしっかりと働いているだけで、それを批判されて剣を向けられる理由はないのですから。
「分からない、か。ならば教えてやろう。先日、我が領地のとある辺境の村が、何者かによって焼き討ちにあうという事件が発生した。村人は大半が殺され、生き残ったのは僅か数人だけと言う酷い状況だ」
「酷い事件だとは思います。でも、それが何か?」
「生き残った者の証言や、調査の結果、犯人は誠に遺憾ながらも、勇者である事が特定されたのだ」
「……」
勇者と言うと、私の知る限りではツカサさんとミコトさんに、イズミさんと私を含んで4人。そこにサクラを含めていいかどうかは分かりませんが、サクラのこれまでの扱いを見れば国王はサクラを勇者とは見ていません。なのでこの場は容疑者から除かれるでしょう。そもそも首輪の効果により、サクラはその行動を制限されているので勝手な事はできないと国王は思っています。つまり犯人は4人にまで絞られている事になります。
他に私の知らない勇者がもしかしたらいるのかもしれませんが、そうでないなら国王の様子から察するに、犯人の目星はついているようですね。
「この世界を救う立場にあるはずの勇者が、守るべき者達をないがしろにするような行動に出るとは思えません。ですが万が一そのような行為を行っていたとしたら、処罰されるべきでしょう」
「その通りだ。我が領地で愛すべき国民に危害を加える者は、もはや勇者とは呼べん。だからこうして、私はお前を迎えに来たのだ。これ以上の愚行を押さえるため、国の中でも優秀な騎士たちを連れてきた。貴様に逃げ場はない」
「まるで私が、虐殺をした犯人の勇者だと言いたそうですね」
「目撃者は、勇者エイミによって焼き討ちになったと証言している。また、現場には貴様の物と思われる黒く長い髪も落ちていた。貴様が愛すべき民を殺したのは明白。よって貴様を連行し、裁きを受けさせる」
「……!」
サクラが心配そうに、私を見て来ます。でも私はそれに対し、無責任に安心させる事はできませんでした。
私が反論した所で、国王は私の言い分を聞き入れてはくれないでしょう。ここは私を罪人に仕立て上げるための、レールです。このレールに乗っている限り、私が行き着く先は罪人のまま……。
「目撃者と言いましたが、それが嘘をついている可能性は?また、現場に残っていたと言う髪ですが、黒髪の女性は私以外にもいます。犯人が私であると断定するには、あまりに早計かと」
「黙れ、民を虐殺せし罪人がっ!罪なき人々を平気で殺す者の言葉など、これ以上聞く必要もない!貴様をこの世界に召喚した事は、私の最大の誤りである!」
大声で興奮気味に叫ぶ国王の迫力は、全身にビリビリと震える物を感じさせます。その迫力を前に、このバカが国王だという事を信じる気になれます。今まではそのバカさかげんに半信半疑でしたが、コレを前にしては信じない訳にはいけませんね。彼は本物の、王様です。
それはさておき、やはり私の言葉に聞く耳は持っていないようです。自分でそう言っていたので、間違いありません。私が何を反論した所で、どうなりそうもありません。
「貴方の言い分は分かりました。では、ナナシさんはどうですか?ナナシさんは、私と共に常に行動していました。一緒に裁くおつもりで?」
「貴様は、一人でこの行いをしたはずだ。何せ事件は、貴様が一人で行動していた時におこっている。それは事件に関わってはいない。よって、裁かれる事はない」
「どうしてそう言い切れるのでしょうか」
「貴様が一人でグリムダストを攻略し、グリムダストから解放されて喜ぶ村人を虐殺した。目撃者がそう言っている。あくまでしらを切るつもりのようだが、こちらは全て分かっている。隠し通せるとは思うな、罪人よ」
「……」
別に私は、サクラを巻き込みたい訳ではありません。探りを入れるために、聞いてみただけです。
ここまでで分かった事は、サクラは関係ない。事件は、私が1人で行動している時におきた。国王の反論を許さない態度から察するに、私を貶めるために仕組まれた罠である。誰が、何の目的で?
考えると、国王がサクラを庇うのに違和感を感じます。そこで思い当たったのが、かつてサクラを荷物持ちの奴隷のように扱っていた、ツカサさん達です。サクラが彼らとは別々に行動するようになってから、荷物持ちがいなくなったので自分達で荷物を持ってグリムダストに入っているはずです。荷物持ちの大切さに気付いた彼らは、私からサクラを奪い、元の荷物持ちとしてサクラを扱う。そんな企みが予想できます。
サクラを欲する彼らと、私を疎ましく思っているガラティアさんと、ヴァンフットさん。タナトスの宝珠を持ち帰らない事にイラ立つ国王もグルになり、私を貶めるために仕掛けてきた。そう考えれば納得いきます。
「……まぁ、いいでしょう。いつかは何かを仕掛けてくると思っていましたから、それが今だっただけの事。ところで今、私が一人で行動している時、グリムダストを攻略し終わってから虐殺を行ったと言いましたよね。ナナシさんと行動するようになる前に私が救った村は、一つしか思い当たりません。しかしながら確認のため、虐殺の行われたと言うその村の名前を、私に教えていただけませんか?」
「デレット村だ」
「──なるほど。貴方に生きている価値がない事が、よく分かりました」
私は身体からサクラを引き離すと、ゆっくりと剣を抜いて構えました。
その動きを警戒し、周囲の兵士が国王と私の間に割って入り、更に他の兵士たちが私との間合いを詰めて来ます。かつて、自分が殺された時の状況を思い出しますね。手にする武器や状況はやや違いますが、似たようなものです。
この男は、私が救い、私が気に入った人たちを殺した。あの長閑な田舎に住んでいた人達は皆優しく、罪もなく殺される理由もない。それが、虐殺された?どうせ私がした事にするため、本当に虐殺したのでしょうね。
この男は、超えてはいけない一線を踏み越えた。なら殺さない訳にはいかない。
「ごめんなさい、サクラ。どうやらこの男は、私の気に入った方々を殺したみたいです。なので見逃す訳にはいきません。作戦の事もありますが、もう構っていられない。この場で殺します」
サクラに小さな声でそう囁いて、私の気持ちをサクラに伝えました。
サクラが守ろうとした物を壊すのは、気が引けます。でもこの男は私に喧嘩を売ってしまった。それも、取り返しのつかない事をした。となれば、死をもって償ってもうしかありません。それも、とびきり苦しい思いをしてからの死が相応しい。
「……まっ──」
私との約束で、サクラは私が許可した者の前以外で口を開く事はありません。でもサクラは目をつむり、自分の胸に手を当てて何かを考えてから目を開き、私に向かって何かを言おうとしました。
「──話は全て父上から聞きましたよ、エイミ様!」
口を開いたサクラの言葉を遮ったのは、女の子の声です。聞き覚えのあるこの声は、リシルさんの物ですね。
声のした方を見ると、国王のいる場所に駆けつけるリシルさんの姿を見る事ができました。
彼女の服装は鎧姿から変わっていて、純白のロングスカート姿が印象的です。恐らくはワンピースを着こんで、その上から青色の上着を着ているのでしょう。上着は垂れ幕が多く、金色のラインが入っていてお洒落かつ高貴に見え、軽装ながらリシルさんによく似合っていると思います。
「……リシルさん」
「まさか貴女が、そんな酷いする方だとは思いもよりませんでした……。貴女となら仲良くなれると思っていたのに、最低です。罪もない人々を殺すなんて、信じられませんっ。この、殺人鬼!」
まるでゴミを見るような目で、涙ながらに私に向かって叫ぶリシルさんが、国王に寄り添って国王もそれを受け入れます。リシルさんを優しく抱き、リシルさんを慰めるそのポジションが羨ましい。
でも、リシルさんのような美少女にゴミを見るような目で見られる私の立場も悪くありません。思わず背筋がぞくぞくして興奮してしまいました。




