パーティ
私たちは、暗い洞窟の中を駆け抜けます。地面は濡れていて、足を滑らせないように気を付けながら駆け抜けた先には、大きな蜘蛛の化け物が待ち構えています。その蜘蛛の背中には大きな人の顔が浮かび上がっていて、苦痛の表情を浮かべている。
正面から見ただけなら良いですが、後ろから見たその顔は不気味その物です。
『キシャー……!』
正面の蜘蛛が、私たちを威嚇するように鳴き声を上げています。背後からも、同じように蜘蛛が迫っている。
挟み撃ちという奴ですね。
「正面はオレに任せろ!背後はミコトに任せる!」
「任された!」
ミコトさんは足を止めて、指示されたとおりに後ろに振り返ります。
ツカサさんは宣言通り、進行方向にいる蜘蛛に向かって突撃していくと、段々とその足が速度を速め、私たちが追いつけなくなってしまいます。
「エクスブレード!」
それはツカサさんの技の名前です。若干ダサく感じる名前ですが、誰がつけた名前なんでしょうか。
それはさておき、普通ではありえないくらいの速度にまで足を速めたツカサさんが、私たちの正面に待ち構えていた蜘蛛を切り裂きました。縦に振りぬいた剣先から、×の字型に放たれた光の斬撃はすさまじい威力です。蜘蛛は切り裂かれるどころか、×の字に分断されて緑色の血を噴き出しています。
虫嫌いの人が見たら、卒倒する光景ですね。
「はあああぁぁぁぁ!」
更にツカサさんは、別の蜘蛛にも斬りかかります。正面に待ち構えていたのは、1匹どころではありません。ですが、数はあまり問題にはなりません。襲い掛かる蜘蛛の足を、ツカサさんはもろともせずに切りつけて倒していきます。
その剣の切れ味は、普通ではありません。触れた蜘蛛をいともたやすく両断してしまうツカサさんは、剣の特殊能力を授かっています。恐らくは剣技関連の転生特典ですね。それらしき特殊能力が、ラスティライズさんに見せてもらった転生特典の一覧にあったのを、私は覚えています。
「──炎の精霊よ。私に力を貸してくれ……!」
一方で、私たちの後方で立ち止まったミコトさんが、矢を手にせずに弦を引いています。その仕草を見せた時、矢が姿を現わしました。それは、矢の形をした炎です。ミコトさんの手の動きに合わせるように現れたそれは、燃やす物もないのに姿を保つ不思議な炎です。
それも、転生特典です。ミコトさんが受けたのは弓の名手の能力。正確に対象を打ち抜く力と、弓を発射する構えを見せただけで出現する、魔法の矢。その威力は……。
ご覧の通りです。
発射されたミコトさんの矢は、私たちが走ってきた道を一瞬にして通過しました。その瞬間に、道が燃え上がります。強烈な熱い炎が、私たちを追いかけて来ていた蜘蛛を燃やし、矢が直撃した蜘蛛は木っ端みじんに吹き飛びました。
道はそれなりに狭かったおかげで、密集していた蜘蛛たちはそれだけでほぼ全滅です。というより、ミコトさんの矢の威力が強すぎるだけですね。
「イズミ!援護を頼む!」
「はい──……。彼の者に、聖なる大地の癒しをお与えください……」
ツカサさんに視線を戻すと、体力を消耗しているのか額に汗が浮き出ています。無理もありませんね。次から次へと現れる蜘蛛の化け物に対抗するため、激しい動きの連続で体力が奪われて行っています。
効率の悪い動きに見えますが、彼らはパーティです。体力を気にせずに戦える環境にあるので、どうにでもなります。
指示をうけたイズミさんが光り輝く杖を片手に、ツカサさんに向かって魔法を放ちました。魔法を受けたツカサさんの身体が淡い青色の光に包まれると、息を切らし始めていたツカサさんの体力が、一瞬にして元に戻りました。
イズミさんが授かった転生特典は、癒しの力です。仲間を癒したり、守ったりする重要な力となります。個人の力ではやや寂しい物がありますが、団体行動では重宝される力ですね。
「よしっ!はぁ!」
体力を取り戻したツカサさんは、元気になって再び蜘蛛達に斬りかかります。
しかし、体力を回復していた僅かな隙をついた一匹が、ツカサさんをかわして私たちの方へと突っ込んできました。蜘蛛が狙いを定めたのは、イズミさんです。前衛よりも、まずは後衛から倒しにかかるその作戦は、賢いと言えるでしょう。
「イズミ!」
「っ……!」
ツカサさんの援護は、間に合いません。背後のミコトさんからは、イズミさんが射線上にいて矢を放つ事はできません。放てても、せいぜい軽傷を与えるだけでしょうね。それでもミコトさんは、矢を構えて発射の構えを見せています。
だけどその必要はありません。イズミさんには、私がついていますから。
私は、イズミさんに襲い掛かろうとする蜘蛛を、イズミさんを背にして斬り刻みました。襲い掛かろうとした蜘蛛は私の剣によって足を失い、更には目玉を斬り刻まれた上で、トドメに頭を両断しました。
ツカサさん程ではありませんが、私のこの剣も相当切れ味が良いんですよ。簡単にバラバラに解体できて、蜘蛛はあっという間に死に絶えました。
「あ、ありがとうございます、エイミさん……」
「いえ。お怪我はありませんか?」
「はい。おかげさまで」
無事なイズミさんの姿に、ツカサさんもミコトさんも安堵の表情を見せています。でも、油断はしたらいけませんよ。特に、ツカサさん。貴方の周りには、まだたくさんの蜘蛛がいるんですから。
私もそちらに援護にいくべきなんでしょうけど、私の役割はパーティの中核である、イズミさんをお守りする事。なので援護はできません。残念です。
「ツカサ!私も手伝うぞ!」
代わりにミコトさんが、新たな弓を構えてツカサさんに襲い来る蜘蛛へと矢を放ちました。今度は白く光り輝く矢です。蜘蛛に命中すると同時に、蜘蛛をまるで浄化させるかのように、まばゆい光の中へと消し去りました。
どうやら、勝負はありましたね。私は私の出番がない事を悟り、剣を納めます。
遅れましたが、私たちが現在訪れているこの場所は、グリムダストの最終層です。この道の先にグリムダストの入っている木が生えていて、その道中を蜘蛛の化け物たちに邪魔されていたんです。
いくつかのグリムダストを攻略し終えている私たちパーティの連携は、かなり形になってきたと思います。それぞれが、それぞれの役割を理解して戦う。素晴らしい事です。男がいなければ、もっと素晴らしい。
「……ナナシさん。いつも言っていますが、そんなに離れていないでもっと近寄っていてください。じゃないと守ってあげられないじゃないですか」
しかし一人だけ連携が取れていないのが、荷物係のナナシさんです。大きなリュックを背負って、いつも私たちからは一歩引き下がった所に位置している。それではいざという時に守ってあげられません。何度も言っているのに、どうしても距離を取ってしまうんです。




