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13.運動しましょう2(少女視点)


「えーと……とりあえず、大丈夫か……?」

「う、うん……ありがとう……また、助けられちゃったね……」

「と言っても、俺は特に何もしてないけどな……」


 二人だけの、夕焼けが差し込む保健室。


 そう言いながら、彼は照れたようにそっぽを向いた。

 顔が紅いよ?なんてからかうみたいに言ってみたら、彼は目を細めてこちらを少しだけ睨むように見る。それでも恥ずかしいのか、顔は明後日を向いたままだ。


 そんな姿を場違いにも、可愛いなんて思ってしまう。でも、これを言ったらきっと怒られちゃうな。


 ……ううん、可愛いなんて言ってる私こそ、どうしようもなく照れ隠ししてるんだ。

 だって彼は、震えて動けない私を見つけてくれて、助けてくれて、声をかけてくれて、助けてくれて……とてもかっこよくて……。


 ……だから。だから、私は彼のことが……


「……大丈夫か?まだ少し、震えてるだろ」

「えへへ……大丈夫、じゃ、ないかも……だから、ね……?」

「お、おい……っ!?」


 私は、彼の胸元へ倒れるように飛び込んだ。

 これはずるいことだって分かってる。彼が受け止めてくれることも分かってた。彼が答えるように腰に手を回してくれることも知っていた。慰めるように、その大きな手で頭を撫でてくれることも感じていた。

 これは、ずるいこと。


 それでもいい。ううん、それがいい。

 だから、私は……


「私のこと……受け止めてくれる……?」


 この心臓の音は、私?それとも……彼?

 上目遣いで彼を見る。いつもの見知った、それでも胸が高なって、私を幸せに狂わせる……大好きな、彼……


 彼は、私の揺れる瞳をじっと見つめてくれて……


「……」

「あ……っ、んっ……」


 彼の温かい手が、私の頬に触れた。

 もうダメ……彼が欲しい……彼に私の全てをあげたい……っ



 そして、二人だけの、夕焼けが差し込む保健室で。

 


 彼と私の距離はゼロになって……二つの影が重なった―――――――







 

 



 

 


「……うん、こういうのはやっぱり、少女漫画だから成立するんだよね……」

「はい夢有、水……なんか言ったか?」

「ウウン、ナンデモナイヨ……」


 紫瞳くんから一杯の水を受け取って呟く。

 あのお気に入りの少女漫画のシーンと今のシチュエーションが似ていたこともあって、すごく鮮明に思い出しちゃった……似ていたのは、保健室だったことくらいだけど。


 あれ?それってもう似ているとは言わないんじゃ……。



 紫瞳くんが保健室に来てから始まったのは、少女漫画のような心ときめく物語……では全くなかった。



 まず、何故か出ていこうとする紫瞳くんを必死に止めた。この時点でもう、ちょっとおかしいな?って感じはしてました。

 そしてどうにか彼の退出を止めて、いざ、紫瞳くんと誰も知らない男子生徒の対決。

 最初に口を開いたのは、紫瞳くんでした。


『あなたは夢有さんの彼氏さんですか?』

『違います!』


 これに答えたのは、まさかの私でした。紫瞳くんと誰も知らない男子生徒の対決に、初っ端から私が参戦してしまったのです。


 でも、これは紫瞳くんがいけないよっ!だって紫瞳くんは、私の好意に気付いてるんだよ!?だから今頑張ってお互いを知れるよう友達にもなれたのに……!

 これじゃ、『私は彼氏がいるのに紫瞳くんに声をかけた酷い女子』って認識になっちゃうんだもん!

 だから必死に誤解を解きました。この人は名前も知らないこと。了承もなしに距離を詰められたこと。身体をジロジロ見られて酷く怖かったこと。勝手に身体に触られ、拭かれそうになって不快感を感じたこと。


 ここまで話して、やっと紫瞳くんは状況を理解してくれました……何故か既に知らない男子生徒さんの方は泣きそうになっていたけど……。


 そして仕切り直して、紫瞳くんと知らない男子生徒の対決が始まります。


『彼氏でもないのに、不用意に女体に触れようとしたんですか?』

『はい……』

『そして特に親しい間柄でもなく、今が初対面だったと?』

『し、しかし彼女は体調が悪そうで……俺はその助けをしようとしただけで……!』

『彼女はあなたからやましい視線を感じ、不快感を感じたと言っています。それについてはどうお思いですか?』

『それは……否定、しません……』

『つまり、自身の行いにやましい気持ちがあったと認めると?』

『……認め、ます。本当に申し訳ありませんでした……っ!』


 私はこの光景を見て、職務質問という言葉を思い出しました。もしくは、裁判の風景ってこんな感じなのかもしれません。


 そして粛々と話は進み、彼の謝罪を受けて、今回の件は水に流すということでお話は終わったのです。その知らない男子生徒さんはすごすごと保健室から出ていきました。

 

 ……平和的解決だったし、紫瞳くんにまた助けられたことには間違いないんだけど……少女漫画のような心ときめく展開を期待してしまったのは不可抗力ということにしてほしい。私だって女の子、そんな夢物語に憧れちゃうもん……。

 でもこんな展開になるなんて、『現実は小説より奇なり』って言うけど、ちょっと奇なり過ぎるよ……。


 うぅ、勝手に期待していた分、恥ずかしい……!何か話題を……!


「そ、そういえば紫瞳くんはどうしてここに?もしかして、紫瞳くんも気分が悪いとか……」

「いや、俺は大丈夫。ちょっと夢有の様子を見に来たってのと……」


 そう尋ねながらも、紫瞳くんから少し距離を取るために数歩下がります。

 べ、別に紫瞳くんが嫌とかじゃもちろんないんだけど……むしろ二人きりという絶好の機会、大胆に距離を縮めたい所なのに……!

 あの知らない男子生徒さんも、私が汗かいてるって言ってたから、今近づいちゃうと、その……においとか、色々とあれだから!乙女として!


 これからは制汗スプレーを常にポケットに入れとこうかな……


「その、夢有に聞きたいというか……頼み事?があってさ」

「私に?」

「……俺を風紀委員に入れることって、出来るか?」

 


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