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三つの刃

「えっ!? 義経さん、しばらく帰ってこないんですか!?」


「なんだ? 朝早くからうるさいぞ!」


 いや、もう昼近くなんだが......と思いつつも、声を押し殺し、息を整えた。


「それでまたなんで......」


 メアリーが引きつりながら、しぶしぶ答えた。


「いやですね、ちょっとフランスのほうに急用が出来まして......」


「ふら......、んす?」


 沖田は不意に首を傾げた。


「それは......、イギリスのどこですか?」


 ほとんど欧州≪ヨーロッパ≫の情報は伯爵からの手紙で得てはいたものの、周辺諸国のフランスやドイツなど一部の情報は省かれており、それもある程度しか知らされていないため、沖田の頭の中にはロンドン周辺の地形が思い浮かんでいた。


「い、いえ、フランスはイギリスの海を越えた先にあります! さらには異国ですので、帰ってくるのはしばらく先かと......」


 理解が追いつかないため、ぽかーんとした顔を浮かべている。やれやれと言わんばかりにジャンヌもといリズが答えた。


「イギリスは四方を海で囲まれている島国でな、長年に渡り海の向こうの国との戦争が定期的に起こる。その一つがフランスだ。日本も似たようなことが起こっているのだろ?」


 理解は追いついていないが、何かまずい気がしたので、とりあえず頷いた。


「しかし困ったな......。少し頼みごとがあったんだが」


「困っっているのはこっちだ。ああ見えてあの人は結構じゅう―。っ!」


 リズが何か言いかけたときにメアリーが思いっきり手で口を叩くように塞いだ。


「痛いな! なー」


(しー! 義経さんの身元は明かしてないんですから! 義経さんからも口外しないようにと言っているんですから! だから黙っていてください!)


 普段のメアリーからは想像できないほど血相を変えて迫ってくるもので、迫力に圧倒され言われたとおりにすることにした。


「えっ? 義経さんがどうかしたんですか?」


「い、いや、なんでもない! それよりパパに何の用だ?」


 言い出すことに何らかの躊躇いがあったような仕草に苛立ちを覚えたが、メアリーのさとしもあり、爆発することは無かった。


「少しばかり剣術を指南してもらいたく......」


 沖田が口を開いた途端、キョトンとした顔がリズとメアリーに浮かんだ。


「あ、あれ? どうか......、したんですか?」


「いや、特には......、な?いきなりどうしたのだ? 昨日の剣筋を見ている限りでは、充分の技量はあるとは思うが......」


「いや、実際これのお陰と言うか......」



 そういい、清野≪きよの≫・千里≪せんり≫を差し出した。


「こいつの『未来透視』を使って、行動を先読みしていたからだと......」


「これは......、聖剣≪せいけん≫か?」


「いや、これは聖剣ではなくて、妖刀なんです。もし、ここでの呼び名がそうだと言うのならそれであたっていますが」


(私の知っている限りでは、少し違うのだけど......)


 メアリーは清野・千里を凝視し、考えるように自分が知っている情報を整理した。


(そもそも、聖剣は王などの位の高い人を奉るため、剣に魂を封じ込めたもの。そして封じ込める魂に見境なく使用したものが魔剣...。もっとも、古い聖剣は実際手に取る人がいないからいくつかは魔剣という話も聞いたことはありますが)


 一度息を落ち着かせ、近くにあった椅子に腰かけ、腕を組んだ。


(そして、魔剣の製法が東洋に伝わり、そこで魔剣の派生である妖刀が誕生した......。魔剣のデメリットである精神崩壊作用を軽減し、なおかつ聖剣からの特徴である硬さや能力も引き継いでいる。確か、人の魂以外に何か封じ込めているって聞いたことあるけどなんだっけ......?)


「あの、メアリーさん大丈夫ですか?」


「ふぇ!?」


 あまりにも考え込んでいたあまり、横から見ていた沖田とリズから心配される始末で、思わず変な声をあげてしまった。


「いきなり椅子に座ったかと思えば、難しい顔するから心配しましたよ。どうかしたんですか?」


「い、いえ!なんでもないです!大丈夫ですから......」


「? ならいいのだが......。それでお前は何が不満だというのか?」


「ここに来て感じたんだ。ここに来てからというもの、未来予知の力を使ってようやく刃があてられるのが現状......。勘を使っても追いつかない、だから...、反応速度を上げたい」


「反応速度を上げたいって...、普通そんなこと出来るか?」


 メアリーは不意に義経を思い浮かべて不意に笑いがこぼれかけたが、何とか表情に出せずに済んだ。


「まあ、出来ないなら他の策を考えるしかない......。とはいっても、何をすれば......?」


「考えるだけ無駄だ。剣でも交えるか」


 そう言ってどこからか木刀を出してきた。それもかなり年季が入っている様子だ。


「以前特訓で使っていたものだ。聖剣や魔剣のような特殊能力は無いが、剣術の腕を高めると言う意味ではいいだろう?」


「ああ! 受けて立つ!」


「なら、ちょっと待ってろ! 亜空間の生成してくる」


 沖田は身震いを起こした。なにせ、先日気を失った謎の場所で、その原因もそれではないかと疑っているぐらいなのでトラウマでも働いたのであろう。


「ちょっと待ってくれ! そ、それは大丈夫なのか?」


「大丈夫だ! 昨日の事はよくは分からんが、普段ああいうことは起きないから気にすることは無い!」


「いや、普段ないからこそ避けるべきでは......」


「細かいことは気にするな、すこし生成に時間がかかるだけだ」


 もはや沖田には反論する術は無く、リズは陣の成型に取りかかっていた。

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