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騎士団の繕い係  作者: あかね


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おまけ 複雑なもの

 ラウルはグノー家の当主であり、ロワイエ服飾品店の社長である。5店ほど所有するそこそこいけてる事業主だ。ただ、領地経営には向いてないらしく、そちらは赤字を出しまくっている。結果、裕福とは縁遠いことになってしまっていた。上二人は何とか寄宿舎に送り込むことはできたが娘のほうは、針仕事が好きということで店の手伝いばかりをさせてしまった後悔がある。

 その上、後継者となる決意さえさせてしまった負い目もあった。


 言いわけでしかないが次男は相手方が是非にという話で承知したが、長男のほうは本当に予想外だったのだ。

 そのため、ラウルは娘がどんな男を連れてこようと受け入れるつもりではいた。

 まあ、まだ先だろうと思っていたのは甘かったらしい。


「お父さん、お店に連れて来たい人がいるの」


 久しぶりに帰ってきた娘が夕食の席でこう切り出したのだ。


「お友達かい?」


「ええと、今は、そうかな?」


 歯切れの悪い言い方にラウルが首をかしげている間に、妻が、まあ! と嬉しそうに声をあげた。


「男性かしら」


「そうだけど、きれいな布とか好きっていうからっ! 当日はお店閉めるけど、その、紹介してもいいかな」


 ラウルはそれに頷くことしかできなかった。口を開けば余計なことばかりを口にしそうだったのだ。

 どんな男でも、と思ったのだからそれは守りたい。


「どういう方なの?」


「繕い物が上手」


 針子部屋には男性はいないはずである。どこで誰と知り合ってきたのか謎だった。

 ラウルは早々に夕食を切り上げた。話を聞きたくてうずうずしている妻に遠慮したのだ。申し訳ないが、ラウルはその話は聞きたくなかった。

 娘の異性の友達。

 それもただの友達でもなく、紹介するというからには婿候補として考えていい。

 ちょっとばかり、飲み込むのに時間がかかりそうだった。


 それからしばらくして、娘がそのお友達を連れてきた。


「……ようこそ」


 でかっ! という感想が口をついて出そうになったが、どうにか押し込めて笑顔をラウルは張り付けた。立派な体躯で布などに興味があるようには見えないが、見た目と中身が違うということはよくあることだ。

 ラウルが妻を見れば、妻も驚いていたようだった。


 ひとまずは相互の紹介をし、ラウルが店の案内を買って出た。娘が強引に誘ったのではないかとちょっと不安になったのだ。娘が彼に向ける視線が恋情というより親しい友人に対するもののようで、そこも気になる。

 本当に、ただのお友達、かもしれない。こちらの早合点だったら申し訳ない気もした。


 アトスと名乗った青年は終始穏やかで丁寧な物腰だった。


「こういうお店に入ってみたかったんです」


 そういうと嬉しそうに店を見回して、娘に目を留めると少しだけ目を細めた。


「クレア殿には感謝してもし足りないくらいです」


「そ、そうか」


 ラウルはソレになにかの波動を感じた。

 娘はともかく、彼は、ただのお友達、とは思ってないらしい。

 その柔らかな表情に、全く気がつかない娘が鈍いということにも。


 ラウルは気を取り直して扱っている製品などの紹介につとめた。意外に素材に対する知識があり、話して楽しい相手ではあった。

 同性でこういった話をする相手は少ない。同じ仕立屋として付き合いたくても、ラウルは貴族であると一線引かれてしまう。息子たちは趣味が偏りすぎて喧嘩にしかならないので不戦協定がある。

 それと比べるとアトスは気が合いそうに思える。


「ところで、ご実家はどちらかな」


「え。ロデル湾を所有するラーサイトです」


「…………。そうか」


 ラウルもなんどか利用したことがある場所である。あの家は商船の護衛を生業としている。荒くれものばかりとは言わないが、こう、おおざっぱである。


 改めてラウルはアトスを見た。確かにそちらの顔立ちのような気はした。違う国の血も入っていそうではあるが、それも好都合である。

 同国の血が入ってるとなるとちょっとだけ対応が甘くなることはあった。海の向こうの国はいくつかあり、交易が難しいところもある。そういうところと付き合える可能性が生まれるだけで得だ。


 今のところ、悪いところがない。

 ラウルは娘の見る目の良さは感じる。ただ、婿候補なぁと思うとそれはそれで複雑である。


「今日は好きなだけ遊んでいくといいよ。

 今後も店に来てくれて構わない。まあ、店長は娘だから相談してもらいたいがね」


 口実を用意したのだから存分に利用したまえ。とラウルは思うが、伝わったような気はしない。普通に感謝されてしまった。

 まあ、このくらいの速度がちょうどいいかとラウルは思い直した。

 やはり、すぐに結婚されるというのも寂しいものである。


 と思っていたのが覆されるのはその数十分後のことだった。

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