表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士団の繕い係  作者: あかね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/30

その風の匂いは

 寄せて返す波はいつも違う。同じようでも少しずつ違った。

 人の子も同じようで、みな違う。


「やあ、うみの」


 久しぶりの声にその方向を見れば、渦巻く風があった。

 海とは違う匂いがした。


 小さな獣にそれは姿を変えた。白い羊のようなもこもこはなんとなく作ったものだろう。実際あるものである必要もない。

 風は、風でしかない。


 海にしかいないというわけでもない。


「遠出はきついな。

 おまえももうちょい内陸に来なよ」


「何しに来た」


「婿をもらうというので挨拶がいるかと思ってな。

 うちも一人渡したようなものだから帳尻は合うだろう?」


「貴様のところだったか」


「うん。

 勘の良さがあると思ったけど、小さいころは見てたんだな」


「船に乗りたいと言っていたのに」


「うちも職人になるとか言ってたのに、冒険が呼んでるとか言って消えたぞ。諦めろ。人の子、自由過ぎる」


「知っている」


「見過ぎるのも今どきしんどいぞ。

 まあ、寂しいけどな」


「知っている」


「……あー、時々、遊びに来てやってもいいぞ」


「いらん」


「この、俺の、好意を!」


「そっちに行く」


「は?」


「もてなせ」


「はぁ!? ふざけんなよ。そっちもなんかもってこいよな」


「当たり前だろう」


「偉そうだな。みみっちいいたずらしたくせに」


「大したことはしてない。

 人がきちんと確認していれば、全部、防げた。怠慢だ」


「……ほんと、拗ねちゃって」


「もう決まったのだから、なにもしない」


「そうだといいけどね」


 波の音も同じようでいつも少し違う。

 どれも同じではない。


「波の残った後はレースみたいできれいらしい」


「そうだな」


「人の手で作って残したいと思ったこともあるそうだよ。

 別に、忘れたってどこか残ってるよ」


「さっさと帰れ。半分減ってるぞ」


「ここいらは風が強いな。

 じゃ、また」


 そういって白いもこもこはほどけて消えた。消えたように見えるが、小さくなって遠くまで行った。

 軽くて、いつでも遊び歩いているやつだった。

 誰かにつき合うなんて面倒というものが、長く一つの地にいる。モノ好きというものもいるが、そこだけは好ましくも思う。


 この地を離れがたいという気持ちにも似ていて。


 見守っていてねと話した子供はとうに亡く。その遠い血が残るのみ。

 それでも。


「……しばらくは、騒がしくなりそうだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いたずらしたのは誰だ? と思ったら、早速アンサーがきました。 ありがたいです。 仲がいいのか素っ気ないのか良くわからないやり取りがかわいいですね。 すごく好きです。 同じようで違うと繰り返すのも良…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ