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15歳 その4

 家に帰って部屋着に着替えた後、ベッドに寝そべるとぽふりと枕に顔を埋める。はしたないとわかっていても、そうせずにはいられなかった。

 今日は要らぬ嫉妬でリチャード様とマリアに随分と心配をかけてしまった。

「でも……」

 今の二人に邪な気持ちなど全くないことは十分にわかっている。それでも、どうしたって二人が仲良くなることを手放しでは喜べない自分がいる。

 今はまだ知人程度の関係かもしれない。けれどゲーム通りに事が進めばそれは友情、ひいては愛情に変わっていく。

 そしていずれ大切な婚約者と大切な友人その双方を失うのだ。

「そんなの嫌だ……」

 そんなことを考えたらもうダメだった。こらえきれずにぽたりぽたりと涙の雫が枕に落ちていく。

 泣くなんて情けないとは思いながらも、一度流れ出た涙はとどまることを知らずに枕を濡らしていった。



 翌朝、目が覚めて鏡を見ると目が真っ赤に腫れていた。あれだけ泣いたのに冷やすのを怠っていたせいだ。

 昨日はそこまで気が回らなかったとはいえ、鏡に映った自分の顔に気分がどんよりと重くなる。

 何より、こんな顔でリチャード様と顔を合わせる訳にはいかない。

 仕方がないので引き続きの体調不良という事にしてもう一日休むしかないだろう。

「今からこんなんじゃダメね……」

 はぁ、とため息が零れた。いつか来る日に向けてきちんと心の準備をしなくてはいけないのに、出来ていないどころか、べそべそ泣いてしまった自分が情けない。

 でも、思いっきり泣いてしまったおかげでどこか心が軽くなった気がする。ずっと気持ちを押し殺して溜め込んでいたのもあまりよくなかったんだろう。

 うん。大丈夫、明日からはちゃんと笑えるはずだ。



 そんな風に明日からと意気込んでいたのもどこへやら、その日の放課後リチャード様がお見舞いに来てくれた。何とか目の腫れは引いていてほっと胸を撫で下ろす。

 昨日に引き続き無用な心配をかけてしまった事を申し訳なく思う。流石に本当の理由を話すわけにもいかないけれど、なるべく元気そうに振舞わなくては。

「エミィ、体調はどうだい?」

「念のためにお休みをいただいただけです。こうして起き上がれますし、明日からは普通に学園にも行けますわ」

 自室に通したリチャード様にベッドの上で半分起き上がった状態で言葉を返す。本来ならばきちんと椅子に座ってお話しすべきところだけれど、心配したリチャード様から止められてしまった。

「それならいいんだけれどね。このところ、顔色が優れない事が多かっただろう?」

 そういって私の顔を覗き込むリチャード様。私の嫉妬心からくる変化に気付かれていたらしいと思うと、恥ずかしくてうつむいてしまう。

「いえ、そんなことは……」

「じゃあ何か心配事かな?」

 とは言え私だって分別はある。なるべく嫉妬心を抑えて話を聞いていたつもりだった。それなのにこうも言い当てられてしまうとその鋭さにドキリとする。

「本当に何でもありませんわ……」

 そんなリチャード様に対してできることといえば、誤魔化すように緩く首を振って答えるのが精一杯だった。


「なんにせよ、無理だけはしないでね」

 そんな風に呟きながらベッドの傍までやってきたリチャード様にふわりと抱き締められる。昨日と同じ体温に顔が熱くなっていく。

「……リチャード様」

「今日は抱き返してくれないのかな?」

 くすくすとからかうように言われ私の顔は更に熱くなる。昨日はどさくさに紛れて抱き着いてしまったけれど、今思うと随分大胆な事をしてしまっていた。

「エミィ?」

 催促するような声色で名前を呼ばれる。それを無視することなんて出来なくて、おずおずと腕を伸ばしてリチャード様の背中に回した。抱き着くことまではできなくて、今の私には背中に腕を回すので精一杯。

 それでもリチャード様は満足気に頷いて、ぎゅっと抱き締め返してくれた。

 それは本当に幸せな時間で。この腕の中にいつまでもいられたらいいのになんて、夢のようなことを願ってしまう。

 うっとりと目を閉じると、昨日と同じように額に柔らかな感覚が落ちてきた。

 今の私はちゃんと笑えているだろうか。

 こうしている間だけは嫉妬心なんて忘れて、婚約者として大好きなリチャード様の傍に居られる幸せをを噛みしめていたいと願った。

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