表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/37

13歳 その5

 2人で街を見て回っている最中。はしゃぎ過ぎた私は見事にリチャード様とはぐれていた。

 元々どうにかしてはぐれるつもりではあったけれど、そんなタイミングをうかがう必要すらなかった。

 初めて見るものだらけではしゃいでしまった私は、うっかりリチャード様の手を離してあちらこちらを眺めて。そんな事を繰り返していたら離れ離れになってしまった。

 目的は達成されたとはいえ、無邪気が過ぎたことは少しばかり反省する必要がありそうだ。


 これからどうしたものか。と考えているとすっと目の前に出てくる一人の人物。

「エイミー様、大丈夫ですか?」

 その人は今まで遠目で見守っていてくれた私付きの侍女だった。

「ごめんなさい。はしゃぎ過ぎてしまったわね」

「はぐれた場合の待ち合わせ場所までご一緒します」

 多分このまま任せておけばリチャード様と合流するのはそう難しくないはずだ。

 けれど、すぐに合流してしまっては、リチャード様とヒロインとのイベントが起きないのではないかと心配になる。

「ねぇ、少しだけ寄り道したらだめかしら?」

「……エイミー様」

「リチャード様にネックレスのお礼がしたくて。こっそりプレゼントを買いたいの」

 難しい顔をする侍女に対して、何とか言いつくろって時間を稼ごうとする私。

「すぐに済ませるわ。だからお願い」

「少しだけですよ」

「ありがとう」



 リチャード様へのお礼がしたかったのは本当で、私は先ほどネックレスを買ってもらった宝飾店へと足を向ける。

 ネックレスを購入して貰っている間に目に留まったものがあったからだ。

 そのショーケースの中にはネックレスと同じモチーフのタイピンが並んでいた。その中から思い切って緑の石が付いたものを選ぶ。

「これ、どうかしら……」

 プレゼントされたネックレスとお揃いで、しかも自分の瞳の色の石が付いたデザイン。それでリチャード様の胸元を飾れたら素敵だなんて思ってしまった。

 独占欲の発露みたいなそれに、流石に気持ちが重いかもしれないと思いながら、侍女にも意見を求めてみる。

「殿下はきっとお喜びになりますよ」

「そうだと良いのだけれど」

 侍女の言葉に背中を押される形で会計まで足を運ぶ。リチャード様に少しでも喜んでもらえたら嬉しいと思いながら。


 無事にお返しのプレゼントも購入した。

 リチャード様がヒロインとイベントを起こすための時間稼ぎはこのくらいで十分だろうか。

「エイミー様、そろそろ待ち合わせ場所へ」

「ええ、わかったわ」

 これ以上理由を作るのも流石に無理がある。おとなしく侍女について歩くことにした。



 待ち合わせ場所に向かう最中、不意に視線を向けた先にリチャード様らしき姿を見つけた。

 そして……その隣には一人の少女の姿。

 次の瞬間――ふとリチャード様が目を細めて笑うのが見えた。

 本能的にわかってしまった。今まさにリチャード様はヒロインとのイベントの真っ最中だと。


 それは、人込みでうっかりぶつかって、転んでしまったヒロインにリチャード様が手を貸す。そんなベタなイベントだった。

 そこで自分が転んだのにも関わらず「お怪我は無いですか?」なんて事を聞くお人好しなところが気に入られて、リチャード様の記憶に残るという流れなはず。

 このイベント自体は、過去にも出会っていたというエピソードを作るための些細なものに過ぎない。

 当たり前だけどこれでリチャード様の好感度が大きく上がる訳でもない。それに学園で会った後にこのエピソードを思い出すのもだいぶ先の話だったはずだ。


 それでも、こうやってヒロインが現れた事。何よりリチャード様がヒロインに笑い掛けていた事に私は大きく動揺していた。

 イベントを起こそうとして動いていた半面、心のどこかでヒロインが現れない事を祈っていたのかもしれない。

 

 ここからではヒロインの顔も見えないし、何を話しているのか聞き取ることはできない。

 だけれども、だからこそ気になってしまう。

 リチャード様はどうして笑っていたのだろうか? ゲームのイベント以上の事が起きてる可能性は? 既にリチャード様がヒロインを好きになっていたりしないだろうか?

 考えれば考えるほどに気が重くなっていく。


「エイミー様? 顔色が優れませんが……」

 突然立ち止まってしまった私に、侍女が心配そうに声をかけてくる。

「いえ、なんでもないわ」

 私は緩く首を振って気持ちを立て直す。

 駄目だ。このくらいの事で動揺してはいけない。この先に待ち受けるのが何であれ、覚悟は既に決めたはずだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ