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プロローグ
――初めて会った時から恋に落ちていた。
――望んではいけないと知りながらその手を取った。
――共に過ごす日々は優しさに満ちていた。
それだけで十分だ。
仮初の関係でも彼の隣にいられることは幸福だった。
それ以上を願ってはいけない。焦がれてもいけない。
本当に伝えたい気持ちを心の奥底にしまい込んで私は笑う。
この日が訪れることをはじめから知っていたのだから。
「貴方のことを心からお慕いしております」
声は震えていたかもしれない。
精一杯の笑顔も歪んでいたかもしれない。
それでも、涙だけは零さずに伝えることができた。
「だから……どうか幸せになってください。それが私の心からの願いです」
どんなに不格好でもこれだけは笑って伝えたかった。
私と彼女、二人分の気持ちを込めた別れの言葉だったから。




