92.シスコン悪役令嬢、フィアナの育つ村へ
すみません、最終話の予定でしたが膨れてしまいました。
もう少し続きます。申し訳ありません。
自身の告白とフィアナからの告白&衝撃的な体験をしてしまったあの日から、数日が経過した。
事故で負った怪我も熱で崩した体調もすっかり回復した私は今、馬車に揺られている。その隣にフィアナを伴いながら。
「ここら辺はだいぶ揺れるのね……」
「王都と比べるとあまり整備されてませんから。私はお姉様の家に来る時も体験したので大丈夫ですけどお姉様の方は大丈夫ですか?」
「う、うん。まあ、大丈夫なんだけどね……?」
「……? どうしました?」
「いや、そのー……揺れるから危ないのはわかるんだけどこんなに密着する必要は……あるのかしら?」
先程フィアナを伴っているといったがその実、今回は彼女の私用に私が付いて行っている形というのが正しい。
それ自体は別に何でもないのだが、いま問題なのはフィアナが私の腕に抱き着くように絡みついていることだ。そのせいで私達しか乗ってない馬車の中のスペースは有り余りすぎている。
「ありますよ。とっても鈍感なお姉様はこうしないと全然意識してくれないじゃないですか」
「い、いやそんなことは……」
『鈍感』という言葉を強調してそう言ったフィアナは腕をさらに絡めると私を上目遣いに見る。当たり前だけどフィアナは元からして可愛さ溢れる美少女なのでそんなことをされるともう見るのすら躊躇してしまうほどだ。
「むぅ、どうして目を逸らすんですかお姉様」
「だ、だって……」
目を合わせてしまうと色々ともう辛抱が出来なくなってしまう。今までは何ともなかったはずなのにあの日から彼女の瞳にドキドキするようになってしまった。
だけど、今は気持ちを切り替えねばならない。何より今日馬車に乗っているのは彼女とのデートを楽しむためではないのだから。
「だめよフィアナ。馬車には二人きりだとして護衛の方々もいるんだから、ね?」
「はぁ……わかりました。ここでは我慢します」
そう言ってフィアナは少しだけ腕を解いた。まあ、まだかなり引っ付いてはいるがだいぶマシになったほうだ。それに小さく安堵の息を吐きながら彼女の変わり様も思い出して小さなため息も追加された。
あの日、私は全てを語ったがその日常は大きく変わることはなかった。元々多少の無茶をしてきたこともあってかそこに新たな事実が加わっても割と受け入れられたのだ。当たり前だが不特定多数の人に話したわけではないからこれからどうなっていくかはわからない。しかし、それでもとりあえず一安心してもいいだろう。
しかし、その中でフィアナだけは変わってしまった。もちろんそれは悪い方向にではない……はずだ。
「それはそうとして、お姉様が付いてきてくれるなんて嬉しいです!」
「ま、まぁ一緒に出掛けたいとは思ってたから……でもよかったのかしら墓参りまで一緒に行っても」
「もちろんです! だってお母さんやお父さんに……素敵な方が出来たと報告しないといけませんし……」
素敵な方(姉)ということですよね? とは聞けないぐらいフィアナの瞳は綺麗に輝いていた。
そう、今日は長期休みを利用してフィアナの実家がある村を訪れる予定なのだ。以前デートらしきものをしたときに買っていたお供え用のお花は馬車に積んである。
流石に私達だけで遠出するのは許可が下りず最低限の護衛を連れて行くことが条件になった。治安が良いとはいえ公爵家の人間が護衛なしで出歩くのは万が一の事があってはまずい。私としてもフィアナに何かあったら大変なことになるのでそれは承諾した。
私もこちらの世界ではこうして遠出するのは初めてだしフィアナも一緒にいる以上、そういった防犯面はしっかりしておきたいところだ。
「あ、見えてきましたよ!」
「フィアナ、窓から身を乗り出すと危ないわよ」
きっと懐かしい景色なのだろう、フィアナは私の戒める声に返事はしたものの食い入るように窓の外を見ていた。
(フィアナにとって見たかった景色なのかしら……)
例えばこれがただの里帰りで、実家に両親が待っているというのなら浮足立つ理由もわかる。だけど彼女にとってはある意味辛いことなのではないかと思う。
帰郷と言えど目的は墓参りだ。フィアナは両親が大好きだったはずだし気持ち的には明るい物ではないはずだ。
「懐かしいなぁ……」
そう呟くフィアナの声に、色々な感情が入り混じっているのは流石に『鈍感』と言われている私にもわかった。
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「まぁまぁ、フィアナちゃんかい? ずいぶん久しぶりねぇ!」
「なんだ、フィアナちゃん帰ってきたのかい?」
フィアナの村はそこまで大きくはないが牧歌的で温かい雰囲気だった。彼女が穏やかな性格に育った理由が何となくわかるような気がした。
それなりに豪華な馬車で来るとやはり視線を集めていたようで、馬車からフィアナが降りてくるとすぐに人が集まってきた。やはりフィアナは村でも可愛がられていたらしい。そりゃ私も骨抜きにされるぐらいだから当然か。
「皆さん……お久しぶりです。学園がお休みなので墓参りに戻ってきました」
「そうだったのかい。いやいや元気そうで何よりだよ。あっちの方での生活は大丈夫かい? 苦労はしていないかい?」
「少し苦労もしましたけど。周りの方に助けて頂いたりして何とかやれてますよ」
あっという間に囲まれてしまったフィアナ。何だか少しだけ疎外感があるがそれはしょうがない。
少し時間が掛かりそうだったので護衛の人達に今のうちにお礼を言っておくことにする。一応一泊する予定なので今回彼らには苦労をかけてしまうが大体それを労おうとすると「いえ、仕事なので気にしないでください」と困ったように言われてしまう。
実際、それは事実なのだが何となくお礼を言わないといけないと思うのは前世の記憶があるからだろうか。貴族としてはあんまり褒められたことではないとしても、まあ私だからいいかと謎の開き直りをしている。
「お姉様!」
護衛の彼らには墓参りに出発するまで待機してもらうよう指示を出していると聞き慣れすぎた声に呼ばれる。その声に振り返ると熱心に手を振るフィアナと私を不思議そうに見る村人達が視界に入った。
「フィアナ? どうしたの?」
「お墓参りに行く前に皆さんにお姉様を紹介したいのですが……いいですか?」
「紹介……私を?」
「はい! ぜひ! 大事な人として!」
それは……大事な人(姉)ですよねフィアナさん?
そんなこんなで村人全員に興奮気味に私の事を紹介するフィアナは非常に可愛らしかったけど、正直あまりにも過大評価な表現で褒めちぎられるような紹介をされるのは中々に恥ずかしかった。
そして、そんな嬉し恥ずかしな紹介が終わるといよいよもって墓参りの時間がくる。
「馬車で行くほどの場所ではないんですけど、ちょっと歩きますが大丈夫ですか?」
「それぐらい大丈夫よ。行きましょう」
馬車から用意したお供え用の花を取り、いよいよもって彼女の両親の眠る場所に向かうことになった。
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