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78.シスコン悪役令嬢、目撃する

 フィアナを伴い裏庭に足を踏み入れた私達だったが、その歩みはちょうど入ったあたりで止まることになった。


「あれ、誰かいる?」


 てっきり誰もいないと思い込んでいたので二人っきりになれずがっかりしたが、私はそこにいた人物を見て驚いた。


「あれは……」


「フロールさんじゃないですか……?」


 そこにいたのはつい先程まで話していたフロールだった。私達と別れた後にどうやらここに来ていたらしい。


「でも、なんで……?」


 誰しもが浮かぶ疑問を私が口にしたタイミングで、彼女の陰にもう一人誰かがいるのを確認できた。ちょっと背が低くブラウンの髪をツインテールにしている……少女だ。


「あれ、クレスさんじゃないですか?」


 フィアナの言うとおり、フロールと一緒にいるのは彼女の取り巻き……じゃなくて親友のクレスだった。少し物静かな感じでアクシアと似た雰囲気を持つ少女だ。

 別に一緒にいるのは不自然でもなんでもないが、いつも一緒にいるトールの姿は見当たらなかった。


(なにしてるんだろう?)


 隠れる必要はなかったかもしれないが、何となくフィアナと一緒に陰に身を潜めた。裏庭は月明かりに照らされており、演奏されている音楽が合わさると幻想的ですらあった。

 普通に出て行ってもよかったかもと思ったが時既に遅し。妙に二人の距離が近くどこか彼女達だけの世界という雰囲気が漂っていたせいで、迂闊に踏み出すことを躊躇ってしまった。


「…………」


 チラリと横を見るとフィアナも同じように困惑しながら二人の方に目を向けていた。

 私が見ていることに気付いた彼女は「どうしましょう?」という視線を向けてきた。それにどう答えようか悩んでいたらその二人に動きがあった。


「わ、すごい……」


 それを見たフィアナの呟きに私も心で共感する。


 彼女たちは月の下、音楽に合わせて踊り始めたのである。裏庭には私達と彼女らしかいないようで、私たちに気付いていないとすれば彼女らにとっては二人っきりの舞踏会である。

 フィアナが自然と言葉にしてしまうほど、実際彼女らの踊りは完璧で優雅なものだった。フロールとクレスはそこそこ身長の差はあるが、そんなものは微塵も感じさせないような華麗なステップを踏んでいく。

 それは彼女らがそれだけ踊り慣れているかということを表しており、一体どういう関係なんだろうと思わざるを得ない。


(確かに大体いつも一緒にいるし、親友だって言ってたし仲が良いのは本当なんだろうけど)


 音楽はゆったりとしたペースで踊りを楽しめるようなテンポだ。フロールが主導権を握っているようでクレスは導かれるように踊っている。

 しかし、何だか二人の踊る様子にどこか色っぽさというか、ちょっとした妖艶さが混じっているような気がする。


 踊り、という動きの中で二人の距離が縮まることは多々ある。それは理解できるのだが、クレスの腰に回っているフロールの手つきだとか、ギュッと抱き寄せた時のお互いの腰を寄せる感じだとか、思わず唇が付きそうになるほど顔を近づけたりだとか……とにかく見ているこっちが変な気持ちになってしまいそうなほど、彼女らの動きは扇情的だった。


(きょ、教育に悪いのでは……フィアナの)


 別にフィアナを子ども扱いしているつもりではないのだが、見ていれば本当に恋人同士がするようなダンスだ。フィアナもそれは感じているのか少し顔を赤くしながら彼女らを見ている。

 それからどうしようもないので踊っている彼女達を見学するしかなかったのだが、流れていた音楽が徐々に静かになっていく。どうやら曲の終わりが近づいているらしい。


(チャンスだわ! 終わったと同時に今来ましたっていう感じで出て行こう)


 フィアナにも軽く目配せしてそれを伝えた私はその期をじっくり待つ。そして遂に音楽が止んだその瞬間だった。


「ん?」


 一曲を踊り切った二人。フロールは一息つくと満足げにクレスを抱き寄せた。身長差の関係上フロールは見下ろし、クレスは見上げる形になっている。ダンスで高揚したのか二人の頬は遠くから見ても赤く染まっているのがわかった。

 二人はしばらく無言で見つめあっていたが、やがてフロールはその手をクレスの顎にそっと添えた。


「え、え……?」


 何をする気なのか、なんて誰から見ても明らかだった。クレスは普段のダウナーな印象を感じさせない程うっとりとした瞳になっており、対するフロールもまたその瞳に好意という熱を灯していた。


 そして、そのまま二人は顔を近づけていく。


「あ、わわっ」


 いや、そんなまさか。心のどこかであり得ないだろうという思考が沸き上がってきたが、それを否定するようにフロールとクレスはゆっくりとお互いの唇を重ねた。


「…………」


「…………」


 唖然という言葉がぴったりだろう。私もフィアナも目の前で起こった光景に目を丸くして固まることしかできなかった。

 キス、接吻、口づけ、そんな単語だけが脳内を駆け巡っていく。

 二人のそれは長かった。唇同士だけを重ねているだけだが、フロールは抱き寄せた腕を全く解こうとしないし、クレスだって体を時折小さく震わせながらもギュッと抱き着いて唇が離れないようにしているようだった。


(と、とんでもないことを見てるんじゃないの!?)


 冷静、というわけではないが我を取り戻したのは私が先だった。別に誰がどう恋をしていようが口出しするつもりもないし、同性だろうが異性だろうが否定するつもりもない。

 だけど、場所が場所だ。確かに今はダンスパーティの真っ最中で皆そっちに夢中だろうが、だからといって誰かがここに来ないという保証もない。実際私達が来ているわけでもあるし。


(場所を気にしないぐらいお互いが好きだってこと……?)


 あのフロールとクレスがそういう関係だということはかなり意外だった。実際今日の今日までそんな素振りは微塵も感じなかったのだ。


 一体いつまで唇を重ね続けるのか。終わらない接吻に目を奪われていたせいで、隣でフィアナが熱っぽい表情と潤んだ瞳で私を見つめていることに、全く気付くことが出来なかった。

ブックマークや感想、評価や誤字脱字報告などありがとうございます!

次回の投稿は9/13の22時を予定しております!セリーネとフィアナの関係が少しだけ変わるかもしれないので楽しみに(?)お待ち頂ければ嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします!


※すみません、投稿日を間違えていました。

正しくは明日9/14の22時になります。すみませんがよろしくお願いします。

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