65.シスコン悪役令嬢、試験の結果を知る
恐らく補完されているとは思うのですが、フロールの一人称は私です
んん? と訝し気に掲示板を見ていた私だったが、それは私の隣にいるフロールも同じだった。
「あら……?」
なぜ二人して頭に疑問符を浮かべているのか、それは勿論目の前の掲示板が原因だ。
「高等部試験順位表」とわかりやすく書かれたそこには今回の試験で好成績を取った生徒が順位付けされていた。基準は筆記試験と魔法試験を組み合わせたもので、奇跡というか何というか私の名前は何と5位にランクインしていた。
本来なら喜びたいところなのだがしかし、それが出来ない別の問題があったのだ。
「私の名前が、ない……?」
そう、隣で消え入りそうな声で呟くフロールの名前がどこにもないのだ。
「そ、そんな……確かに手応えはあったはずですのに……」
「フロール様!?」
ガクッと倒れそうになった彼女を取り巻きが慌てて支える。しかし、よほどショックなのか顔を青くしている。
(んー、どういうことだろう?)
例えば何かニアミスを繰り返したとしても、彼女は以前の私と競うほどの頭がいいはずだからそれで6位とか7位でした。っていう話ならおかしくはない。ただ、結構な順位まで表示されている場所に名前がないというのはやはり変だ。
と、その時だった。
「あ、いたいた!」
たくさんいる生徒を掻き分けるように入ってきたのは女性の先生だった。どうやら何かを伝えるためにフロールを探していたらしく、真っ直ぐに私達の方に向かってきた。
「せ、先生、私の……わたくしのなまえが……」
「そのことについて説明があるから、ちょっと来なさい。呼ぼうと思ったらもう教室にいなかったから焦ったわ……」
まさに失意の底にいるようなフロールはそのままフラフラと先生に連れていかれてしまった。当然、取り巻きも付いていくので私は自然一人ぼっちになる。
「えぇ……ど、どうしよう……」
折角日本にいたころでは取ったことのない5位という高い成績も何だか素直に喜べない。ちなみに上位陣にはいつぞやの王子の名前とか知らない生徒の名前が並んでいたが、前のセリーネだったらもっと上だったのだろうか。
「そういえばフィアナの結果はどうだったのかしら」
高等部の結果が出ているなら、恐らく中等部の結果も発表されているはずだ。私はそれを確かめるためにいまだに多い人混みを掻き分けて中等部に向かうことにした。
「あ、お姉さま!」
いつもの待ち合わせ場所に行くと、既にフィアナとアクシアが待っていた。いつもだと他の生徒に囲まれていたりするのだが、今日は珍しくそれはない。私が珍しがっているとフィアナは困ったように解説してくれた。
「皆さん、試験の結果に釘付けみたいで」
「あ、やっぱりそっちもそうだったんだ」
とりあえずいつもの場所に移動してから話をしようと歩き出す。その時コッソリとアクシアが耳打ちしてきた。
「フロール様との勝負は、どうなったの……?」
「……とりあえず今は保留、みたいな?」
「……?」
なにそれ、という顔をアクシアは向けてくるが、そう言いたいのは私も同じだ。
「ところで二人の成績はどうだったの?」
「私は、まあまあ……そこそこ?」
「そこそこって……5位だったのに?」
フィアナにそう言われてアクシアはちょっと恥ずかしそうに目を逸らした。たぶん褒められ慣れてないのかもしれないけど、私と一緒だし普通に好成績だ。
「フィアナはどうだったの?」
「え、あ、ああ、私は、その……」
私が聞くとフィアナもアクシアと同じように目を逸らす。ま、まさかあまりよろしくなかったのだろうか。でも、魔法試験に関してはぶっちぎりでいいはずだし、筆記の方もしっかり勉強していた筈だ。
そんな私の不安を消すようにアクシアがポツリと呟く。
「フィアナは堂々の、一位……だった」
「あ、アクシア……」
「へっ? いちい?」
「そう……筆記は高得点で魔法試験はぶっちぎりで一位だったから、総合で一位……皆羨ましがってた……」
「フィアナ、一位だったの?」
私が恐る恐る尋ねると、彼女は恥ずかしそうにしていたがやがてコクリと頷いた。そしてその瞬間、私は彼女を抱き寄せていた。
「ひゃっ!? お、お姉様!?」
「やるじゃない! 一位なんてそんな簡単に取れるものじゃないし、立派な妹を持って姉としても嬉しいわ!」
「そ、そうですか……?」
「ええ、誇っていいわよ! ついでにクラス中に……いや、高等部中で自慢したいんだけど!!」
「そ、それは恥ずかしいのでやめてください!」
私の提案は割とマジなトーンで拒否された。でも自慢の妹は誰かに紹介したいと思うのは姉としての性だと思う。そういえばゲーム中でも学力と魔法を両立させると一位になり、攻略対象とのイベントがあったりするのだが、今回も私が独占させていただくことになりそうだ。
「ん?」
そんなことを思っていた時だった。私達の元にゆっくりと歩いてくる複数の人影が見えた。何だろうかと思い少し身構える。今までも何度か私達の間に入ろうとする輩もいるにはいたので自然と警戒を取る。
しかし、その影が近づくにつれて私の表情は怪訝な物に変わっていく。
「あれは……」
その影は三人組で、一番前にいるピンク髪の少女の足取りはまるで死者のように力なく、まさに今にも崩れ落ちてしまいそうだった。
「フロール……?」
見間違えるわけもないが、しかし酷い様である。先ほどまでの堂々とした振る舞いは影を潜めており、その足取りは見るに堪えない。
「……あ、大丈夫よ。知り合いだから」
アクシアはフロールだとわかっていたようだが、フィアナは初対面で知らないせいか身構えていたので、そう声を掛けて少し落ち着かせる。
それにしたって様子がおかしい。
しばらくどうしたものか彼女を見つめていると、ゆっくりとしたスピードで私達の方へ向かってくる。進行方向的に私に用があるとは思うが、あの姿を見ると間違いなく彼女自身に何か良くないことがあったのがわかる。
フロールはそのまま進んできて私達の前まで来るとそのまま膝からがっくりと崩れ落ちた。慌てて彼女の取り巻きが支えようとするがそこから起きる気力もないらしい。
「フロール……どうしたの?」
あまりにも痛々しいその姿に私は思わず声を掛けると、彼女はゆっくりと顔を上げた。そしてその顔は今までで一番情けない程涙ぐんでいた。
「う、うぅ、セリーネ、さん……」
「は、はい……」
ひどく震えた声に思わずそう返事することしか出来ず、どうしたものかと思っていたら、彼女は泣きそうな声で私に告げた。
「今回の試験、私の負け……ですわ……」
「え?」
「ですから、今回の試験は、私の負け、ですわ……!」
一体何があったのか、困ったようにフィアナとアクシアを見たが彼女らも同じように困っており、後ろに控えている取り巻きもどうしたものかと戸惑っている。
そんな私達に囲まれながらフロールはゆっくりと事の詳細を語りだした。
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いつも誤字が多くて本当にすみません……
次回の投稿は7/13の22時頃を予定しております!
今月は中旬から少し忙しく、少し投稿の間隔があくかもしれませんので、その時はまたお知らせします。
次回もどうぞよろしくお願いいたします!




