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63.ゆるふわお付きメイド、お嬢様を知る

 フィアナお嬢様は元から魔法の心得はあり、それこそ一般程度には扱えるようでした。


 そんな彼女でしたが、何とセリーネお嬢様とバリス王子の決闘中に「何らかの理由」があって、突如魔法の才に目覚めてしまったそうなのです。


 そのことが原因でフィアナお嬢様は魔法院で検査を受けることになってしまい、私の軽率な発言のせいで、引き取られてしまうのではと勘違いしたセリーネお嬢様がご乱心してひと悶着あったりしたのですが、結局その心配も不要に終わり、フィアナお嬢様は再びエトセリア家に帰ってきました。


 まあ、私から見てもセリーネお嬢様とフィアナお嬢様は大変仲睦まじく、フィアナお嬢様が自ら出て行くという選択肢を取ることはあり得ないと思っていたので、当たり前の結果に特に驚くことはありませんでした。しかし、やっぱりお嬢様達が楽しそうに過ごされているのを見て安心したのも事実です。


 しかし、この騒動はまだ終わりませんでした。


「え? お嬢様がメイドになるんですか?」


「そうなのよ。約束してたのをすっかり忘れてたわ……」


 何でも決闘の勝敗でそういう約束をしていたらしく、セリーネお嬢様と何故かフィアナお嬢様が一日だけですが王城でメイドとして働くそうなのです。


「それでさ、ちょっと申し訳ないんだけど簡単でいいから、掃除とかそういうのってどうなってるのか教えてくれない?」


「は、はあ、それぐらいならいいですけど……」


 何でまたそんな話になったのか、色々と事情を聞きたかったのですが、それを聞く暇もなく次の休日の朝、お嬢様達は王城から来た馬車に乗って旅立っていきました。


「だ、大丈夫なのかしら」


「どうなんでしょうー……」


 その姿をシグネと一緒に心配しながら見送ります。


「フィアナお嬢様は元々平民だったからある程度家事は出来るようだけど、セリーネお嬢様は……」


「い、一応暇な時間に掃除とかの練習はしたんですよー?」


「でも、箒なんて持ったことすらないでしょ?」


「そのはずなんですけどー……」


「ん?」


 ただ、心配する反面一つ不思議なこともありました。シグネの言う通りセリーネお嬢様は公爵令嬢という身分で家事なんてするわけもなく、それらは未経験の筈でした。

 しかし、家事の事を説明して軽く一緒にやってみるとまるで最初から慣れているかのようにある程度こなしていくのです。


「流石にこっちもそんなに変わりはないわね……掃除機とかないのはあれだけど……」


 ふと、一息ついた時に聞こえたお嬢様の呟きの意味はわかりませんでした。とにかくその時はそんなお嬢様の姿に驚いたことだけは覚えています。


 正直、メイドになるなんて決闘したと聞いたときよりも心配になったのですが、何だかんだ苦労はあったものの無事にお嬢様達は戻ってきました。


 そしてそれから少し日が経ち……


「何か隠し事をしてませんかー?」


 私は漸くセリーネお嬢様に詰め寄っているのでした。


 いつか機会があればと後回しを続けた結果、こんなタイミングになってしまいましたが、流石にこれ以上胸の中だけで疑問を秘めていくのは無理でした。


 思えばお嬢様が病気から目覚めてから色々とおかしかったのです。自分自身が大変な時に休みを貰った私を叱らず、それどころか気遣ってくれたり、今まできつく当たっていたフィアナお嬢様に対して急に柔らかくなり、それどころか好意を示す有り様……

 そして最後のきっかけになったのはセリーネお嬢様の『ダンス講師』探しです。初心に戻りたいなんて言っていましたが、お嬢様のダンスの腕前からすればそれが必要だとは思えなかったのです。


もしかしたら単純にフィアナお嬢様と練習したいのじゃないかと思いましたが、私はお嬢様に本当に何かあったのではないかと、心配で心配でしょうがありませんでした。


「それで、どうなんですか?」


「どうなんですかって、な、何の話……?」


 失礼にあたると知りながら何度か問い詰めたり、それなりに長いにらめっこをした結果、最終的にセリーネお嬢様はがっくりと諦めたようにため息をつきました。


 そしてゆっくりとですが、話し始めてくれます。


「……実は」



#####



 お嬢様の話してくれた内容は、すぐに信じろというのは難しい話でした。


「ほえぇ……本当なんですか? それ……」


「いやまぁ、私も自分で信じられないんだけど、事実というか、わかるでしょ?」


 話の内容は凄く滅茶苦茶でしたが、確かにそれなら色々と辻褄も合います。

 ですが、他の人の記憶があるというのは私にはさっぱり理解できない感覚です。それに元のセリーネお嬢様の記憶も曖昧だとなれば……


「よく今まで誤魔化せましたねー」


「いや、まあそこら辺は上手くやったと思うわ……いや結構失敗したけどさ」


 チュリア家のアクシア様だけにはバレてしまい話して協力してもらっているようですが、それでも周りから隠して過ごすのは大変だったのでしょう。

 それを労わると「フィアナがいたから大丈夫だったけどね」とよくわからない返答を貰いましたが、どこか隠しきれない疲れみたいなのも感じました。


 だったら、と私も微力ながらセリーネお嬢様に力を貸したいと思います。例え中身が誰であろうが私にとってお嬢様は世界に一人だけであり、それは不変の事実なのですから。


「私も事情は知った身ですので、これからはどんどん頼ってくださいねー。たぶんご助力できるとは思うのでー」


 私がそう言うとセリーネお嬢様は嬉しそうに笑ってくれました。


「アイカがいてくれれば心強いよ。これからもよろしくね」


「はいー、ダンスについてはお助け出来ないのが残念ですがー……」


 だけど、私がそう言うと鋭い目つきで睨まれてしまいました。やっぱりダンスが出来たほうが良かったのでしょうか……




 そして、その日の夜。仕事を終えた私は家に帰りつきました。お嬢様と話し込んでいたので少し遅くなってしまい、恐らく皆寝ているだろうと思っていたら、母だけが待っていてくれました。


「お帰りなさい、アイカ。遅かったわね」


「起きてたの? もう寝ててよかったのに」


「今日は調子が良かったからね。それよりもアイカ、遅かったけど……何か良い事があったの?」


「え?」


「何かそんな感じだったから、違ったかしら?」


 私はそれを聞いて考えます。セリーネお嬢様の秘密を知れたことが良い事だったのか悪い事だったのか、それは今すぐには判断できることではありませんでした。

 だけど、今までより心がスッキリしている気がするのは、やっぱり私も今のお嬢様に違和感を覚えて心のどこかでずっと不安だったのかもしれません。


「うーん、そうかな……そうかも」


 よくわからない返事になってしまいましたが、母は微笑んでくれました。


「無理はしないように、貴女らしく頑張りなさいね」


「うん、ありがとうお母さん」


 母は詳しくは聞かずそれだけ聞いてそう言ってくれました。私はそれに素直に返事をして明日から頑張らないとなぁと気合を入れ直します。


 どうか、セリーネお嬢様とフィアナお嬢様がこれからも変わらずに仲良く過ごせますように、と。

ブックマークや評価、感想、誤字報告などいつもありがとうございます!


次回の投稿は7/7の22時頃を予定しております!

一応、当初の予定通りパーティ編で物語は終了する予定ですが、最期までお付き合い頂ければ嬉しいです!

よろしくお願いいたします!

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