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62.ゆるふわお付きメイド、お嬢様に戸惑う

アイカパートがしばらくゆったり続きますが、よろしくお願いいたします!

 私の知っているセリーネお嬢様という人物は、鋭い目つきに性格は高飛車で傲慢、そのうえ理不尽という失礼ながらあんまり人様には正直に紹介出来る方ではありませんでした。


 ですが、今私の前にいるお嬢様からはそんな気配を微塵も感じられませんでした。


「えっと……貴女は?」


 流石にそこそこの付き合いなのに私のことを本当に忘れているようで、しかもお嬢様は他人に対して「貴女」なんて言葉遣いしないはずです。

 やっぱりどこかおかしい。そう感じた私はあえてとぼけたように口を開きます。


「ええー……お嬢様、アイカをお忘れになったのですか? 確かにお嬢様が大変な時にお休みを頂いてしまいましたが……それでも忘れるなんて……ぐすん。あ、もしかしてクビの暗喩だったりしますー?」


「あっ、ああ、いえ、その冗談よ、冗談! 忘れてなんてないわよ」


 案の定、とってつけたようなバレバレの誤魔化しに私までどうしたものかと困ってしまい、その時はとりあえず話を合わせました。


 それからも続けて話をしましたが、セリーネお嬢様は記憶が定かではなかったり、楽しみにしていたパーティのことまで覚えていなかったりと、やはり彼女に何かあったと確信するには十分すぎました。


「どうだった?」


 セリーネお嬢様に食事を届けた後、その片づけを済ました後お嬢様の変わり具合を考えているとシグネがやってきました。彼女の口ぶりとその表情から私の言いたいことはある程度察しているようでした。


「うーん、なんか様子というかー、根っこからこう……変な?」


「私も昨日一日だけ一緒にいたけど、人格が変わったんじゃないかって思ったわ」


「熱のせいですかねー?」


「もしかしたらそうなのかも。重病だと性格が変わったりすることもあるみたいだし……」


「じゃあ、セリーネお嬢様も?」


「まあ、そう考えるのが妥当じゃないかなって」


 でも、あそこまでガラッと雰囲気から変わるものでしょうか。確かに熱は高かったようですが治らないような難病ではなかったようですし、やっぱり別の何かがあったのかもしれません。


「あ、そろそろ掃除の時間ね。行ってくるわ」


「はいー。いってらっしゃーい」


 シグネとはそこで別れることになりましたが、私はこの時まだ何も知らなかったのです。

 セリーネお嬢様の性格が変わったことはもちろんですが、そのめちゃくちゃっぷりに……



#####



 少し前の話にはなりますが、エトセリア家に一人の女の子がやってきました。金髪のショートに人形のような可愛らしい容姿が特徴のフィアナお嬢様です。


 彼女はエトセリア家と縁のある家の娘らしく、なんでも両親が亡くなってしまい引き取ったとのことでした。それに伴いシグネは彼女のお付きメイドとなり、私がセリーネお嬢様のお付きメイドになったのです。


 それはそれで良いのですが、セリーネお嬢様のフィアナお嬢様に対する気持ち、というかコミュニケーションが物凄かったのです。


「フィアナ、今日は学校で何もなかった? なんか変なこと言われなかった? 何かあったら私に言ってね、ある程度は揉み潰すから」


「は、はぁ、だ、大丈夫ですよ……?」


 元々、セリーネお嬢様は引き取られてきたフィアナお嬢様にきつくあたっていました。勿論誰も諫めることがないので、それは益々エスカレートしていくのでは、と私は心配でした。


 しかし、私の目の前で繰り広げられているこの光景はなんなんでしょう。


「ほら、おいでおいで」


「は、はい……」


 セリーネお嬢様の自室、そこでソファーにて仲良く(フィアナお嬢様は困惑しているようですが)している光景は、今までの事から些か信じるには難しいものでした。でも幻覚や幻聴ではないはずなので、やはり現実なのでしょう。


 そう、セリーネお嬢様はいつの間にか大のフィアナお嬢様大好きになってしまっていたのです。


「あーもう、昨日も今日も明日もフィアナは可愛いなぁ……」


「あ、あはは……」


 最初の辛辣な態度は一体何だったのか、殆ど真逆と言っていいほどの変わり具合にはフィアナお嬢様も困惑しているようで、どうしたらいいかわからないといった表情のまま、セリーネお嬢様に可愛がられています。


 だけど、そんなことが日課として定着するほど時間が経ち、フィアナお嬢様も慣れてきたのか、だいぶセリーネお嬢様に打ち解けてきていました。そんな様子を私も困惑しながらですが微笑ましく見守っていたのです。


 しかし、そこで事件が起きました。


「え? セリーネお嬢様が倒れたんですか!?」


 学園からの使いの便りで何と、セリーネお嬢様が学園で倒れてしまったらしいのです。もしかしてまだ病気が治っていなかったのでは……そう皆が不安に駆られたのですが……


「は、はぁ!? 第二王子であるバリス様と決闘して魔力切れ!? い、一体どういうことなんですか!?」


 ちょうど午後の時間帯、いつもは仕事をしているご主人様が滅多に見られないような声を張り上げていました。

 何でも内容を聞いた限りではセリーネお嬢様がこの国の王子であるバリス様に決闘を挑んだらしいのです。


「な、なにをしているのだあの娘は……!」


 いつもは温厚で優しいご主人様が珍しく本気で怒っている様子に皆が恐れていると、彼はすぐに迎えの者を手配するように指示しました。まあ手配といってもお付きメイドの私と数名だけが編成されるだけなのですが。


「セリーネお嬢様、大丈夫でしょうか……」


 魔力切れで倒れたことはともかく、決闘なんてして大きな怪我でもしていたらどうしましょう。


 しかし、そんな私の心配は全くの杞憂で、しかも話には全く上がっていなかったフィアナお嬢様がとんでもないことになっていることを知ることになったのです。

ブックマークや評価、感想、誤字報告いつもありがとうございます!

見直しもしているつもりなのですが、毎回誤字があったりして本当に申し訳ございません……


次回の投稿は7/4の22時頃を予定しております!

どうぞよろしくお願いいたします!

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