60.シスコン悪役令嬢、お付きメイドにバレる
申し訳ありません。忙しくて一時間遅れましたorz
冷や汗と同時に心臓の鼓動が徐々にうるさくなってくる。
場所は廊下から自室に移動した私とアイカの間には確かに緊張の糸が張っていた。
「それで、どうなんですか?」
「どうなんですかって、な、何の話……?」
私は言葉を慎重に選んでいた。アイカはまだセリーネの記憶が入れ替わっていることを知らないはずだ。つまり、単純にハッタリでこちらを試している可能性だってある。
「最近、というか熱が治ってからずっと様子がおかしいですよねー?」
「そ、それは……」
だけど、アイカのそれはただの勘じゃなくて確信を持ったもののように感じた。むむー、とこちらを疑っている目線からは逃げられそうにない。
「もしも何もないなら、後でいくらでも謝りますー。けどですね、何だかここ最近お嬢様が危なっかしく見えて、私は不安なんです」
「アイカ……」
思い返してみれば、というか思い返さなくても確かに滅茶苦茶なことをやってきた。元の性格のセリーネだって割と理不尽なタイプだったが、朝倉美幸という記憶が芽生えてからは違うベクトルで意味不明な行動をするタイプになったのだ。
それの良し悪しは置いておいて、アイカはそれが単純に心配だったんだろう。
「失礼は承知の上で言わせてもらうと、以前のお嬢様と比べて性格も丸くなって朗らかになりましたよねー。最初は単純に成長したのかとも思ったのですがー。ですが、あまりにも急な変わりようでしたし、どうしても引っかかるところがあってー……」
そりゃそうだろうと内心同意する。中身の記憶がガラッと入れ替わっているなら、例えそれを知らなくても周りからすれば引っかからないわけがないのだ。
一応セリーネとしての記憶は少しだけ蘇った部分もあるが、まだ殆ど思い出せていないし、思い出したところで今の状態から変わることはないだろう。
となれば、やはり話しておいた方がいいのだろうか。
「いつ聞けばいいかなーとは思っていたんですが、最近のお嬢様は忙しいですし……それで、何かあったんですか? それともやっぱり思い違いでしょうかー……?」
ここで「アイカの思い違いだ」と言うことは簡単に出来る。そう答えれば彼女は納得しないだろうが、それ以上の追及はしないだろう。ゆるふわなに見える彼女はずっと賢い女性なのだから。
でも、そうするときっと私と彼女の間には小さな溝が出来るのは確実だ。黙っておいたままにするか、それとも全てを話してしまうか……
私が選んだのは──
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「ほえぇ……本当なんですか? それ……」
「いやまぁ、私も自分で信じられないんだけど、事実というか、わかるでしょ?」
「そう言われてみれば、全部しっくり合いますねぇ」
まあ、話さないという選択肢は元からないよね。
素直にアイカは信用できる人間だと思っているし、それこそ悪どいことを彼女がするとは考えられなかった。
さて、そんな私の話を聞いたアイカは確かに驚いたが、そこまで狼狽するでもなく、ある意味納得した驚きのようであった。
「ですが、他の人の記憶が混じるというのは、前世とかそういう感じなのでしょうかー?」
「それはどうだろう……可能性はあるかもしれないけど、でも……」
私は死んでいない、はずだ。女子高生だった頃の記憶はあれど事故にあった覚えはないし事件に巻き込まれた記憶もない。ただ、もしかしたらその記憶を思い出せないだけ、という可能性も……
「っ! あぐ……!」
「お嬢様……? お嬢様!?」
何か忘れていないか? そう思って日本にいた頃の自分を深く思い出そうとしたら、久しぶりに強烈な頭痛に襲われる。その痛みに思わず跪くとアイカが驚いて駆け寄ってくる。
「こ、この通り、思い出そうとすると頭痛がしてっ……私もよくわかんなっ……! うぅっ」
「い、いいですから! わかりましたから、もうわかりましたからぁっ」
しばらく続いた頭痛が漸く治まってきた私は、アイカから水を貰いつつ話す。
「私もさ、私自身がまだよくわからなくてこれを話したのはアイカが二人目なの」
「一人目は誰なんですか?」
「アクシアよ。彼女にもバレちゃってね。いつも助言を貰ってるの」
「そうだったんですかぁ。あの、このことは他の方には知らせるつもりで……?」
私はそれに首を振って答えた。まだ知り合い全員に話すのは私自身が無理そうだ。
「じゃあ、とりあえず今は秘密ってことですねー?」
「うん。いつかは絶対話すつもりだけど今はまだ私に勇気がないし、タイミングも違うかなって」
恐らく今最も私を怪しんでいるのはシグネだろうか。彼女とは付き合いが長いし、もしかしたら勘づいているところもあるかもしれない。両親やフィアナだってどこかで怪しいと思っているのだろうか。
一体いつ、彼女らに打ち明ければいいのだろう?
「わかりましたー。それでは私からは何も言わないようにしますねー」
「うん、ありがと」
アイカはさっきまでいつもと違って真剣な感じだったが、今はいつも通りの調子に戻っているようだった。私としてもこのアイカが一番好きだし、それが崩れなくてよかったと思う。
「ですが、私も事情は知った身ですので、これからはどんどん頼ってくださいねー。たぶんご助力できるとは思うのでー」
「アイカがいてくれれば心強いよ。これからもよろしくね」
「はいー、ダンスについてはお助け出来ないのが残念ですがー……」
そう言って、胸に視線を落とすアイカに向けた私の目はきっと鋭く尖っていたことだろう。
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