48.シスコン悪役令嬢、試験対策に乗り出す
いつも投稿時間が遅れてすみませんorz
「フロール様と……? どうしてまた……」
「いきなり呼び出されてからの宣戦布告よ。どうしてはこっちの台詞だわ……」
そんなわけで今私は学園にある図書館に移っていた。以前にも来たことがあったが今回はアクシアと一緒だ。
「で、どういう人物なの? あのフロールって子は」
「話したことがないから、知っている部分だけになるけどいい……?」
「もちろんよ。あるだけありがたいわ」
何で二人きりかというと、フィアナに私のことがバレないよう情報収集したかったからだ。私のセリーネとしての記憶は相変わらず曖昧で、以前にアクシアとの出会いを少しだけ思い出してから全く進展はない。
フィアナに先に帰っていいよと言うのは辛かった。おまけに少し寂しそうな顔をされたので泣きたくなったが、今は情報が必要だ。
「カロレラ・フロール様。カロレラ公爵家令嬢で……性格はまっすぐで負けず嫌いって聞いたことがある」
「確かにそんな感じだったわ」
「彼女はカロレラ家の長女で、下に弟がいるけどその彼は修行という名目で他の国を旅していることで有名……」
「へー……弟なのに凄いのね」
「跡継ぎ修行は大変……それで今カロレラ家には彼女だけがいる状態。ちなみにエトセリア家とは仲はいいはずだけど……」
それを聞いて不思議に思う。家同士が仲良いのにどうしてあんなにライバル心を燃やしていたのだろうか。
「家は家、人は人……セリーネはいつも彼女に成績で勝ったことを自慢してたし……」
「そういうことか……何してるのよぉ」
とりあえず結論としては昔から競っていたからあんな感じということか。でも少ししか話せなかったけどそこまで悪い印象は抱かなかった。
「結局、どうすればいいのかしら」
「……勉強するしかないんじゃない?」
「だよねぇ……」
そして図書館にいるもう一つの理由は勉強だ。とりあえず期限が許される限り足掻いてみようと思ったからである。
「実際にやってみて少しずつわかってきた気はするけど」
「高等部三年は、応用系の問題が多いから難しいかも……」
「だよねぇ……」
私が今やっているのは魔法学の基礎の基礎だ。この教科は理数系のようにとりあえず知識の地盤を固めなければスタート地点にすら立てない。
(でもこのペースで間に合うかなぁ……)
恥ずかしいことに勉強しているのは中等部で習う内容だ。数学か算数でいえば後者の内容である。
ただこれならアクシアから教わることもできるし、基礎を学ぶことが出来て実は割りと有意義だったりしている。
「だからここで火の性質と魔法の性質が合うから……何もないところに火を生み出せる……」
「なるほどねぇ。ファンタジー世界っていっても、そういう理論も考えられてるんだ」
「ふぁんた……?」
アクシアの時間を貰っていることが申し訳なかったのだが、そう伝えたら彼女は「私の勉強にもなるから」とあっさり答えてくれた。良い友人を持ったねセリーネ! 本当に……
「これの応用って難しいの?」
「まだ習ってないから、なんとも……でもレベルはかなりあがると思う」
「不安しかない」
とにかく諦めるという手段は取れないのでせっせと勉強をする。この図書館も試験が近づいているのか以前の来たときよりずっと人は多い。
そのせいで私への視線をかなり感じる。まあ図書館でセコセコ勉強するような人物ではないだろうし珍しいんだろう。アクシアは私に勉強を教えることよりもそれで目線が集まっているのが嫌そうだ。
「ごめんね。あれだったら場所変えようか?」
「い、いや……大丈夫……でもないけど……将来的にも慣れないといけないから……」
人見知りというか周囲に人がいる状況とか苦手なのかな。満員電車に乗ったら大変なことになりそうだ。
「そう……じゃあ悪いけどもう少しだけ付き合って。何かお返しはするから」
「……期待してる」
それから閉館まで、とまではいかなかったがそれなりに日が傾くぐらいまでみっちりと基礎を学んだ。そのおかげでとりあえず基礎はわかった、気がする。
「アクシア、今日はありがとう。やってみれば意外とわかるものね」
「それなら、よかった……」
まだ全然試験対策としては足りてはいないが、きっかけとしては十分すぎる成果を得た。今回のテストは別にフロールに勝つのが目的ではない。エトセリア公爵家令嬢として怪しまれない成績を残すのが目的だ。
今までが好成績だったなら最低ラインでも平均は越えなければならない。そう考えると少し荷が重いが最早やるしかないのだ。
「こんなに勉強頑張るの受験以来だなぁ」
ポツリと呟いて過去のことを思い出そうとして……やめた。また頭痛に襲われたらたまったもんじゃない。
「ねぇ、セリーネ」
「ん? どうしたの?」
その時だった。ちょうど学園の正門前で解散しようとしたら、アクシアが口を開く。
「一つだけ確認、したいことがあるんだけど……」
「確認?」
私が何の事だろうと首を傾げると彼女は言う。
「貴女のことはいつかフィアナには話すの……?」
「え……?」
「今の貴女の事を知っているのは私だけ……でも、いつボロが出るかわからない状態でしょ……?」
「それは……うん、そうかも」
「ずっと隠すのか、それともいつか話すのか……それだけは聞いておきたくて……隠し続けるのは辛くはない……?」
アクシアはそう言って心配そうに私を見つめる。実際に彼女の質問については何度も考えていることではある。
現状、私はセリーネであってセリーネではない。もしかしたら突然セリーネの記憶が蘇るかもしれないし、逆に一生このままかもしれないという不透明な状態だ。
そんな今の私のことだが、いずれはフィアナや両親、もちろんアイカやシグネにも話さないといけないとは思っている。
でも、まだ時期ではない。というよりも私に勇気がない。
「いつかは、話すよ。でもごめん。いまはまだちょっと怖いんだ」
「怖い……?」
「私の事を打ち明かした時に、もしかしたら家族から周りの人から拒絶されるんじゃないかって、どこかでそう思っちゃうんだ」
「そんなこと……ないと思うけど。フィアナだって貴女の事慕っているし……」
アクシアだって何だかんだ私を受け入れてくれた相手だからその言葉には説得力がある。でもこれは理屈じゃなくて単に私の心が弱いせいだ。
たぶんそんな想いが表情に出たんだろう。アクシアは少し焦って謝ってくる。
「ごめん……別に追い詰めるつもりじゃなくて……ただどうするか心配になっただけだから……」
「ん、ありがとう。私こそ優柔不断でごめん。ねぇアクシア、これからもこんな私だけどよろしくね」
「……ん、こちらこそ」
何だか少し恥ずかしいけどアクシアと固く手を結ぶ。結局頼るのは私で頼られるのは彼女。苦労ばっかりかけた分はいつか絶対返すからと心に誓う。
「えっと……あの、そろそろ」
そんな決意を胸に秘めているとアクシアは恥ずかしそうに繋いだ手を示した。流石に慣れている相手といえど落ち着かないのだろう。
だけど、まだ離せない。
「それはそれとしてアクシア? ちょっと聞きたいんだけど」
「な、なに……?」
最近ずっとアクシアに聞きたかったことが私にはある。
「いつからフィアナと呼び捨てする仲になったのかしら」
そう、最近はフィアナとアクシアはだいぶ仲がいい。お姉ちゃんとしてはフィアナに仲の良い友人が出来たことは嬉しいが、気になる話である。
「え、えぇ……!? べ、別に、最近学園内で一緒にいることが多くなったし、そしたらいつの間にか……ってだけで」
私の問いにアクシアは何か怯えたようにしどろもどろに答える。それを見て私は彼女が勘違いしていることに気づいた。
「あ、ちょっと待って。責めてるわけじゃなくてね? ただ仲良くなってくれたなら凄く嬉しいんだけど、何かあったのかなーって」
「そ、それにしては凄い形相だったけど……」
「いやぁ、一応まだ中等部だし不純同性交友だったらいけないと思ってー、ね?」
「ふじゅ???」
そこから詳しく聞いてみたら、どうやらクラスが違えど同じ学年ということと、フィアナにとっては姉の友人ということで信頼出来る相手ということもあってか、何かと一緒にいることが多くなっているらしい。
それで話しているうちにお互い打ち解けて呼び捨ての仲になったというわけだ。アクシアなら私も信用できるしフィアナに友人が出来たのは素直に嬉しい。今後もそういう人が現れてくれればいいのだが。
そう思っていたらアクシアが感嘆したように言う。
「あんなにいい子中々いない……」
「わかるっ、わかるよその気持ち!」
フィアナの聖人っぷりはどうやらアクシアにもしっかりと伝わっているらしい。姉としては嬉しい限りだ。
「じゃあ、そろそろ……あんまり遅くなると怒られるから」
「あ、うん。ごめんね。それと、今日は本当にありがとう!」
「ん、またね」
そんな風に話をしていたら、いつの間にか周りは薄暗くなっていた。流石に私も帰らないとまずいか。
先に家に帰らせてしまったフィアナのことを思いながら私は帰りの馬車に向かった。
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