40.シスコン悪役令嬢、邂逅する
何故かミリにはちょうどフィアナと触れあっているところばかり目撃されている気がする。まあ別に問題はないんだけども。
「今日は晴れて良かったです。洗濯物もたくさん溜まってましたし」
「そういえばバリス王子から聞いたんだけど、今ってメイド不足なの?」
そして今は城でピクニックの最中だ。
昼食はサンドイッチなどの軽食メインだったが、流石に質が良いのかやたら美味しかった。
それらを軽くつまみながら気になっていたことを私はミリに尋ねている。
まだ午前中だけしか動いてないわけだが、確かに使用人の数が少ないように感じた。何故ならすれ違ったりとかそういうことが殆どなかったからだ。
「不足といえば、そうかもしれませんね。基本的にここで働いている人達は国の定めた休日にまとまって取るので、今日なんかは凄く少なくなるんです」
「へぇ……だったらそのまとまってとるのをずらしたりしたら解決しないの?」
「……そこは色々と法的な問題があるらしいです。だから私とか休みの日に出れる人は割と重宝されたりするんですよ」
国の定めた休日、それは学園が休みの日でもある。つまり彼女は平日は学園、休日は城で働いているというわけか。
「でも、大変じゃない? 勉強に仕事にってなると」
「そうですね……確かに大変かもしれませんけど、でも結構好きなんです。ここで働くの。だって……」
「だって?」
私が相槌を打ったが、彼女はしまったという困惑した表情を浮かべていた。ははーん、さては何かあるな?
「……あ、いえ、その」
とは察したものの、別に無理に詮索したいわけじゃない。誰だってそういうことはあるだろうし、それにたぶん顔を赤くしているなら悪いことではないと思う。
「まあ、苦じゃないならよかったわ。一応ここのメイド業を宣伝しないといけないからね」
「宣伝、ですか?」
「あれ、聞いてない?」
私はバリスから頼まれたことをミリに教える。すると彼女は少し表情を曇らせた。
「そうだったんですね……うーん、ちょっと不安です」
「不安?」
「ええ、今まで大体休日は私と数人のメイドさんでやってましたから、急に増えるとなると嬉しい反面、ちゃんとやれるかなって……」
そう、いくら王城での勤めといってもやることは家事全般だ。あの学園に通っているなかでそうした事に根っから通じているのはそう多くないだろう。
「私もそこら辺はちゃんと考えて声かけはするつもりだから安心してよ。少し苦労しそうだけど……」
「セリーネ様がそう言われるなら……」
そもそも交友関係とかまだ整理出来てないし、苦労するのは間違いない。でもずっと働いているメイド長のイリサさんや休日に少数で働くの彼女らの為にも頑張らなくては……!
「それじゃ、午後からも……あら?」
そう気を改めて気合いを込めた私だったが、先程から静かな妹にそこで気がついた。
「……やっぱり少し疲れましたかね」
私とミリの視線の先にはいつの間にか横になって静かに寝息を立てているフィアナがいた。
きっと疲れと柔らかい陽気にやられたのだろう。起こさないように頭を撫でてあげると「うぅん」小さな呻き声と同時に身じろぎする。
「寝てても起きてても可愛いなぁぁぁ……」
「あ、そういえばちょっと聞きたかったのですが」
「ん?」
寝ているフィアナをニマニマと眺めていたら、小声でミリが尋ねてきた。
「その……前に噂で聞いただけなんですけど、お二人の仲が凄く悪いって……あれって嘘だったんですよね……?」
「ん〝ん〝……!?」
そういえばそんな設定があったなぁ、と苦虫を噛んだような気分になる。
といってもその時のセリーネは今の私ではないわけで、忘れていたのもしょうがない。というか忘れたい過去でもある。
私はそれを否定するように首を大きく横に振った。
「まさか! そんなことないわよ!」
「そ、そうですよね。今日のお二人を見ていたらそれこそあり得ないなぁって思ってたんです」
私の必死な思いが通じたのかミリはそう言って納得してくれた。実際その噂は完全な嘘ではないのだが、今となっては邪魔な噂でしかない。でも、まだ学園内でもそういう噂はあることだけは覚えておこう。
そう考えていたら私の声でフィアナが小さな声を出して起きてしまった。
「……んん? あ、あれ?」
「あ、ごめんねフィアナ。起こしちゃったかしら」
しばらくボーッと虚ろな目をしていたフィアナだったが、突然事態を把握したらしく、パッと飛び起きた。
「す、すすす、すいません! 私いつの間にか寝ちゃって……」
「いえいえ休憩時間でしたから全然大丈夫ですよ。それじゃ片付けて午後の仕事に入りましょうか」
姉としてはもうちょっと寝させてあげたかったし、寝顔も見ていたかったし、どうせなら添い寝までしたかったけど、今はメイドとしての務めを果たさなくてはならない。私の欲望はまた次の機会となった。
「うぅー……油断しました……」
まぁ、恥ずかしそうに顔を赤くするフィアナも見れたからオッケーとしよう!
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それで午後からの仕事なのだが……
「ひ、広いなぁ……」
午前とは違って午後は中々に大変だった。城の中の掃除という単純作業だが、その広さが絶大過ぎるのだ。
「人手不足ってのもわかるわ……」
というか人手が要りすぎる。学園のある日、つまり平日なら働くメイドさんがいるにしたって、この広さは一度にはきっと無理だろう。
「私達も出来る範囲でいいとは言われているのですが、基準もわかりませんし……だからメイド長のイリサさんに指示を良く貰うんです」
「イリサさんはいつもいるの?」
「私が出る日は大体いますね」
じゃあ、あの人はいつ休んでいるんだろう。もしかして休みなしってことはないよね?
「とにかく、時間いっぱいやるしかないわね……フィアナは大丈夫?」
「はい。といってもどこまで出来るかはわかりませんが……」
「そうよね……とりあえず無理はしないでね。元々は私の罰ゲームみたいなものだし」
とまぁ、何だかんだ三人で広い廊下やら部屋やらをひたすらに掃除していく。しかし、こんなに広いと仮に募集で来たとしても続かないんじゃないか。
「というか、この掃除の目的って城を清潔に保つためなの?」
「そうですね。出来る限り綺麗にしておきたいってことらしいです。使わない部屋は放っておくとすぐ埃が溜まりますし」
「うーむ……」
掃除とは得てしてそういうものだが、しかしこれでは際限がない。働く側の負担が多いだけだろう。何とか良い解決方法はないものか……
「もう少し休日も人が多ければって思うことはあるので、セリーネ様には期待してますね」
「んー、あんまり期待されると困るなぁ」
笑いながら言うが、実は割と本気で困っている。流石に嘘をついて勧誘するつもりはないが、現状を聞いて来たいという人が学園にいるだろうか。
と、その時だった。
「ほう、まさか本当にいるとはな」
「ほ?」
唐突に若い男性の声が廊下に響いた。いや、散々ゲームで聞いた声だから誰かはわかるんだけどさ。
「アラン、様?」
私の視線の先には、王太子であるアラン・エステイトとそしてその斜め後ろにちょっと困り顔のイリサさんが立っていた。
何でまたこんなところに?
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次回は一度見直しをしたいので、5/13の11時頃に投稿する予定です!
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