31.純粋無垢な妹、選択を迫られる
検査と聞くとあまり良い印象を持っていない私でしたが、思っていたよりは単純で魔法院の方も凄く親切にしてくれました。
「結果に関しましては明日になると思いますので、今日は遅いのでお泊まりになってください。お部屋の方は用意しております」
ただ、時間はかなり掛かってしまい、全てが終わったのは既に日が沈みきった後でした。
流石に今の時間から帰るのは無理だったので、検査をしてくれた女性の言葉にありがたく従うことにしました。
「お付きの方はどうしましょうか?」
「私はフィアナお嬢様の指示に従います。どうしましょうか、戻ることも残ることも出来ますが」
「え? じゃ、じゃあ、すみませんが……」
シグネさんには申し訳ないのですが一緒に残って貰うことにしました。流石にこんな場所で一人でいるのははっきり言って不安だったのです。
「かしこまりました! それではまた明日、結果が出ましたら迎えに来ますので、それまではごゆっくり寛ぎ下さい。何かあれば外の方に係の者もいるので何なりとお申し付けください」
「あ、ありがとうございます」
それからすぐに部屋に案内されました。エトセリア家にある私の部屋よりも少し狭かったですが、それでも十分に広いぐらいでした。
言ってから用意したのかわかりませんがベッドが二つに椅子にテーブル、化粧台などなど生活に必要なものは揃っているようで、至れり尽くせりです。
「ふぅ、緊張しましたね」
「シグネさん……! すいません、我が儘を言ってしまって……」
「とんでもないです。私が仮に逆の立場でも同じ事を言ってますよ。まさか生きているうちに魔法院に入ることになるなんて思いませんもの」
備え付けの椅子に座ったシグネさんは漸く一息つけたようでした。思えばいきなりの話だったのにも関わらず何も聞かず言わずについてきてくれて本当に心強かったです。
今日の彼女はいつものメイド服ではなく、シンプルで落ち着いた青色を基調としたワンピースと長めのスカートを穿いていました。それが外出用なのかわかりませんが、そんないつもと違うシグネさんは少し新鮮でした。
「さて、すぐにお休みしてもいいのですが……」
「はい?」
そんなシグネさんは椅子に座りながらこちらにジトーッとした目を向けてきました。私はその意図がわからず疑問符を含んだ返事をします。
「私も色々と臨機応変に対応する術は身に付けているつもりですが、今回の件については一から知りたいのですが」
そういえばそうだったと気づきました。シグネさんはあの事の発端からすぐ駆けつけてもらったので、セリーネ様が試合をして倒れたという表面的な情報しか知らないのです。
「す、すいません! 私、自分のことばっかりで……」
「あ、いえ、責めているわけではなく、エトセリア家の方もバタバタしていましたし。ただ何があったのか余裕ができたら聞こうと思ってただけなんですよ」
「わ、わかりました。それならちょっと長くなりますけど、今日の出来事を詳しくお話ししますね!」
「ええ、是非ともお願いします。ですが、長くなるのであれば何か飲み物でも持ってきてもらいましょうか」
そう言ってシグネさんは部屋の扉を開けて、外にいた人に何か頼み始めました。
私もどこからどう説明しようかと、自分でも少し混乱しているところを無理矢理整理したのでした。
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「はぁぁぁ…………」
そして、きっかけから今日のことまで事細かに説明を終えると、シグネさんは深い、深いため息をつきました。
「え、えっと……」
「本当あの人は……猪突猛進というか向こう見ずというか……」
「あ、あの! 悪いのは私なんです! 私が声を掛けられなかったら……」
そう言葉を繋げようとしたら制止されました。
「いえ、少なくともフィアナお嬢様は悪くありませんよ。まあセリーネお嬢様もちょっと考えなしでしたが、そもそも第二王子が元凶ですね。これで向こうにお咎め無しだったら最悪です」
シグネさんは持ってきてもらった水を軽く飲みます。
「それにしても色々と起きすぎてフィアナお嬢様も大変だったでしょう? それにこんなことになって混乱もしてるでしょうし」
「それは、そうですね……というより、まだ実感がなくて。私があんな魔法を使ったことも、魔力があることも……」
「そればっかりは明日の結果次第ですが……とりあえず今日はそろそろ休みましょう。疲れも溜まっているでしょうし」
「は、はい……そういえばセリーネお姉様は大丈夫なんでしょうか……」
「たぶん向こうも同じことを思って心配してますよ。そういえばいつの間にその呼び方になったんですか?」
「え?」
「セリーネお姉様って……」
私はシグネさんにそう言われて途端に恥ずかしくなって俯くと、小さな声で答えます。
「あっ、いえ、実際にまだ呼んだことはないんですが、何だかこっちの方がいいかなって……ダメでしょうか?」
「とんでもないです。寧ろそれで呼んであげたら泣いて喜ぶと思いますよ。間違いなく」
「そ、そうでしょうか?」
「ええ、賭けてもいいです。ただ、それは帰ってからの楽しみということにして、そろそろ寝ましょう。それとも寝付けませんか? 子守唄ぐらいなら出来ますけど」
「……だ、大丈夫です! おやすみなさい!」
「ふふ、おやすみなさい」
用意されたそれぞれのベッドに入った後、すぐに隣から穏やかな寝息が聞こえてきました。子守唄は流石にいりませんでしたが、こうして隣に誰かがいてくれるだけで不安はなくなるのでシグネさんは頼もしいです。
「セリーネお姉様も……おやすみなさい」
そして私は家の方にいるはずのお姉様にも挨拶をしてゆっくりと目を閉じたのでした。
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それから気が付けば朝でした。用意された朝食をシグネさんと食べた後、昨日検査をしてくれた人が迎えにやってきました。
彼女に連れられて大きな講堂のような場所に連れてこられました。他に人はいなく無駄に広く感じます。
促されて椅子に座るとすぐに彼女は結果を話し始めました。ただ、昨日よりも何だか興奮しているようです。
「単刀直入に申し上げますと、かなり高い数値の魔力を測定できました! それもかなり純度の高い魔力で比を見ないほどです!」
「私のが、ですか?」
「ええ、正直とても驚いています! もしかしてどこか魔法の名家の産まれでは……ないんですよね?」
「はい……私の家は至って普通の平民の家でしたから……両親も魔法は人並みで、そういうのを聞いたことはないです……」
ふと、昔の実家と両親を思い出しました。まさか私にこんな力があったなんて……お父さんやお母さんが生きていたらどう思ったでしょう。祝ってくれたかな……
「すみません、不躾な言葉でした……決してそんなつもりでは」
私の感情が悲しみに染まったのを感じたのでしょうか、検査員の彼女は慌てて謝ってきました。それに少し無理に笑顔で答えます。
「あ、いえ。私もいつまでも悪く引きずっているわけにもいかないので、気にしないでください」
聞けば、一応私の身元を調査する必要があったらしく、最低限の情報は得ているらしいです。私の両親が亡くなったことや、その後の流れも彼女は知っているとのことでした。
「と、とにかくですね! 今回の件を踏まえて貴女は将来的にも凄く有望であると判断されました。出来ればこの魔法院に勤めて欲しいぐらいには上の方も考えています」
「私が、ですか!?」
魔法院というのはその名前の通り魔法に関しての専門的な研究をしている機関で、魔法を扱う者にとっては目指すべき理想とする場所でもあるのです。平民である私でもそのことは知っているぐらい有名でした。
彼女は続けます。
「ええ、きっとその才能は魔法学にも、そしてこの国にも多大な益をもたらしてくれると確信があります! 貴女の魔法で人々の生活が豊かになるんですよ!」
「そんな、私にはとても……」
熱の入った彼女の説明に嬉しさを感じないわけではないです。だけど今まで平々凡々だった私がいきなりそんなこと出来るとは思えませんでした。
「それでですね。今フィアナ様はエトセリア家に身を置いていますよね?」
「は、はい。そうですけど……」
何となくその言葉の続きに嫌な予感がしました。何だかとんでもないことを言われそうな予感。
そして、それは的中しました。
「どうでしょうか。フィアナ様さえよければ魔法院の方に住居をご用意しますので、こちらの方で暮らしてみるというのは? 勿論、衣食住も金銭面もすべてこちらが何もかもサポートしますので!」
「え、ええ……!?」
「なんですって……!?」
流石にシグネさんもそれには驚いたようですが、私はそれ以上に驚くことになりました。とんでもない提案です。
「こちらだったら今よりもきっと自由で伸び伸びとした生活も出来ますよ! ど、どうでしょうか……!」
「……フィアナ様」
「…………」
シグネさんの少し不安混じりの声に、私はただ無言で答えることしかできませんでした。
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