12.シスコン悪役令嬢、攻略対象と出会う
また投稿時間が遅れました。すみませんorz
早速フィアナに会うために中等部まで向かう。自分のクラスはわからなかったがゲームの知識のおかげで彼女の教室はわかるのだ。
(つくづく不便な気はするけど……まぁいっか)
朝倉美幸としての記憶とゲームの知識だけしかない現状に関しては、何とかしないといけないとは思うのだがいかんせん、対策の取りようがない。
(そもそも美幸としての記憶があって何でセリーネの記憶がないんだろう……何か辻褄があわないような)
降りるための階段に向かいながらそんなことを考えてみる。というか、今更過ぎるけど日本での私ってどうなって──
「あれ?」
そこでふと、足が止まる。何か物理的な障害があって立ち止まったわけじゃない。
その事態はしかし、物理的障害何かより遥かに深刻だった。
「思い、出せない……?」
いや、確かに朝倉美幸という少女は存在していたはずだ。高校に通うゲームと妹(属性)が大好きな普通の女子高生だったはずである。
なのに、どこか記憶の一部分が欠けたような、まるで頭に靄がかかっているような気色悪い感覚がある。
「何か、忘れてるような……っ!!!?」
それを無理矢理思い出そうとしたその瞬間、鋭い頭痛が私を襲った。突然の強烈な痛みに私は思わず頭を抑えて座り込む。
「ぐ、あうっ……!」
原因不明のそれは全く治まる気配はなく、そうなれば当然異変に気付いた生徒たちが何事かと慌てて駆け寄ってくる。
しかし、今の私にはそれに反応することも出来ない。
「い、つうっ……!!」
「ちょ、ちょっと、セリーネ様が!」
「えっ! せ、先生を呼ばないと……!」
「それよりも、医務室じゃ……」
周りがざわついているのは認識できるが、本当にそれどころじゃない。脂汗が流れて地面にポツポツと落ちていく。
その時だった。
「……何を集まっている?」
集中できない耳に、どこかで聞いたことのある声が響いた。
その声の方向に刺激がないようにゆっくりと頭を上げると周りの人混みが不自然に別れていた。さっきまでうるさかった周囲が不自然な程にシンと静まり返っている。
その先に立っている相手を見て、私は目を見開いた。
「一体どうしたんだ? こんなに集まって」
そこに立っていたのは、『恋愛には一輪の花を添えて』の攻略対象のうち、王道と言われる王太子であるアランが立っていた。
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アラン=エステイト。王族であるエステイト家の長男である。銀髪を整えた長身のイケメンで、まあぶっちゃけ人気が高い。それにゲーム内では王道と言われる所以か、最初に攻略しやすい難易度になっている。
学年は私と一緒で、高等部の一年に弟が一人いる。こっちについては会ったときに説明することにしよう。
とにかく、そんな相手が私の目の前に立っている。
ちなみにゲームでは平民出身の主人公に興味を示し、そのままあることがきっかけで交流を持つのが始まりだ。それからは実は王族として大きなプレッシャーを感じていたり、誰もが彼を王族としてしか見ないことに疲れていた彼を、優しく一人の男性として触れ合ってくれるフィアナに惚れ込んでいくという王道展開だ。
さて、そんな二人の恋路をゲーム内では散々に邪魔する私だが、まさかこんな形で接触することになるとは。
ちなみに彼の性格は王族でありながら、人を見た目や肩書で判断しないところもあり、プレイヤーからの評判も良い。確かに変に捻くれてるよりは私も良いと思う。
「お前は……エトセリア家の、何があったんだ」
「あ、あの、急に頭を抑えたので」
私の代わりに他の生徒が答えてくれた。彼は私の前に様子を見るように屈んだ。
「大丈夫なのか? 返事は出来るか?」
とりあえず出来るだけ無礼がないようにしなければと、しどろもどろになりながら答える。
「……あ、えっと、はい」
くっ、それにしても何て眩しいオーラ! これが王族オーラって奴なんだろうか。ゲームでのセリーネが何とかお近づきになろうとするのも理解はできる。
(まぁ、今の私にはフィアナがいるからいいけど! ってあれ?)
気が付いたら頭痛が嘘のように引いていた。そういえば何を考えていたんだっけ。
「すいません、もう大丈夫です。でした……」
ゆっくりと立ち上がって衣服を整える。自分でもびっくりするほど痛みがなくなっている。さっきのは本当に何だったんだろう。
「大丈夫なのか? じゃあ俺はもう行くぞ」
「は、はぁ、お騒がせしてすみません……」
「大事じゃないならそれでいい」
さっぱりと彼はそう言い放って結構な人を連れて去っていった。私もそうだけど王族ともなれば何とか縁を作りたいと取り巻きも多いのだろう。彼の精神的疲労もわからなくはない。
「はー、それにしてもびっくりした。有名人に会うってこんな感じなのかな」
アラン、か。ゲームでは一通りやったから当然彼のルートも攻略済みだが、はてさて今回はどうなることやら。
ある程度息を整えてから、周りに大丈夫なことを伝えて散ってもらう。
そこで気が付いたがだいぶ時間が経ってしまっている。まだフィアナは教室にいるだろうか。すれ違いになるとまずいと、私は慌てて階段を駆け下りて行った。
その時は全く気にも留めていなかったが、アランが私に向ける目線の中に疑問があったことには、全く気付いていなかった。
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