005
「あの、大佐さん? いったい、何があったの……?」
帝都に響いた銃声と、サクヤとヤトのやり取りを遠巻きに聞いていたのか。玄関から顔を出したハツが、恐る恐るといった様子でサクヤに声を掛けた。
「ああ、おばあちゃん」
微笑んで、「大丈夫よ」と言いかけたサクヤの耳に、駆け足で近づいてくる足音が聞こえた。やや歩調は乱れているが、軍靴の分厚く、硬い靴底が地面を叩く音に違いなかった。
彼らはすぐにやってきた。
漆黒の軍装に身を包んだ、完全武装の近衛兵たち。彼らはサクヤを見つけると、さくら荘の出入り口を塞ぐ形で彼女を取り囲んだ。
サクヤは素早くその人数を確認した。全部で十二人。いずれも、小銃を手にしている。
「木花サクヤ少佐ですね?」
兵の中から、一人の軍曹が進み出て彼女へ訊いた。
「ええ、そうよ。貴方は?」
「これは失礼致しました」
頷き、聞き返したサクヤに、彼は申し訳なさそうな顔になると背筋を伸ばした。
「近衛第七中隊、兼益軍曹であります」
軍曹はそう名乗った。
「そう。よろしく、兼益軍曹」
サクヤは微笑みすら浮かべながら、努めて親しげに応じた。
「た、大佐さん……?」
突然押し掛けてきた、武装した近衛兵たちがサクヤを取り囲んだのを見て、ハツが怯えた声を出しながら近づいてきた。その彼女へ、サクヤは微笑みを向けると言った。
「大丈夫よ、おばあちゃん。安心して、お家に入っていて」
安心させるように、彼女は本当に何でもなさそうな声を出した。
「で、でもね、大佐さん」
サクヤはどうするのかと、ハツが視線で問いかける。
「私は大丈夫だから。少し、お話するだけよ」
本当は怖くて、今にも泣き出してしまいそうなほど怯えている本心を包み隠して。少女は何処までも優しい声でそう言った。
「なにせ、私は英雄なんだから」
そう言って笑ったサクヤからは、不安や恐怖、焦りなどというものが微塵も見て取ることはできない。それほどに、彼女の演技は完璧だった。
サクヤを心配する気持ちよりも、恐怖が勝ってしまったのか。
ハツはやがて、彼女の言葉に従って、頼りない足取りで玄関へ向かった。途中、何度もサクヤの方を振り返る。そのたびに、彼女は笑顔で手を振ってあげた。
玄関の引き戸が弱々しい音を立てて閉まる。
近衛兵の中に一人残されたサクヤは、意識してゆっくりと呼吸した。
両手が小さく震え出していることを気取られないように、背中に回してきつく握り合わせる。
「それで」
後ろで手を組んだまま、サクヤは近衛兵たちに向けて口を開いた。
「これは、何の騒ぎなのかしら? いったい、私にどんな御用件が?」
「それは自分がお答えしましょう、木花少佐」
どこまでも平静を装って尋ねた彼女に答えたのは、少し遅れてやってきた、白刃を思わせる目つきの近衛大尉だった。




