表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜花舞う!!  作者: 高嶺の悪魔
第二章 夏(後) 近衛叛乱
86/205

005

「あの、大佐さん? いったい、何があったの……?」

 帝都に響いた銃声と、サクヤとヤトのやり取りを遠巻きに聞いていたのか。玄関から顔を出したハツが、恐る恐るといった様子でサクヤに声を掛けた。

「ああ、おばあちゃん」

 微笑んで、「大丈夫よ」と言いかけたサクヤの耳に、駆け足で近づいてくる足音が聞こえた。やや歩調は乱れているが、軍靴の分厚く、硬い靴底が地面を叩く音に違いなかった。

 彼らはすぐにやってきた。

 漆黒の軍装に身を包んだ、完全武装の近衛兵たち。彼らはサクヤを見つけると、さくら荘の出入り口を塞ぐ形で彼女を取り囲んだ。

サクヤは素早くその人数を確認した。全部で十二人。いずれも、小銃を手にしている。

「木花サクヤ少佐ですね?」

 兵の中から、一人の軍曹が進み出て彼女へ訊いた。

「ええ、そうよ。貴方は?」

「これは失礼致しました」

 頷き、聞き返したサクヤに、彼は申し訳なさそうな顔になると背筋を伸ばした。

「近衛第七中隊、兼益かねます軍曹であります」

 軍曹はそう名乗った。

「そう。よろしく、兼益軍曹」

 サクヤは微笑みすら浮かべながら、努めて親しげに応じた。

「た、大佐さん……?」

 突然押し掛けてきた、武装した近衛兵たちがサクヤを取り囲んだのを見て、ハツが怯えた声を出しながら近づいてきた。その彼女へ、サクヤは微笑みを向けると言った。

「大丈夫よ、おばあちゃん。安心して、お家に入っていて」

 安心させるように、彼女は本当に何でもなさそうな声を出した。

「で、でもね、大佐さん」

 サクヤはどうするのかと、ハツが視線で問いかける。

「私は大丈夫だから。少し、お話するだけよ」

 本当は怖くて、今にも泣き出してしまいそうなほど怯えている本心を包み隠して。少女は何処までも優しい声でそう言った。

「なにせ、私は英雄なんだから」

 そう言って笑ったサクヤからは、不安や恐怖、焦りなどというものが微塵も見て取ることはできない。それほどに、彼女の演技は完璧だった。


 サクヤを心配する気持ちよりも、恐怖が勝ってしまったのか。

 ハツはやがて、彼女の言葉に従って、頼りない足取りで玄関へ向かった。途中、何度もサクヤの方を振り返る。そのたびに、彼女は笑顔で手を振ってあげた。

 玄関の引き戸が弱々しい音を立てて閉まる。

 近衛兵の中に一人残されたサクヤは、意識してゆっくりと呼吸した。

 両手が小さく震え出していることを気取られないように、背中に回してきつく握り合わせる。

「それで」

 後ろで手を組んだまま、サクヤは近衛兵たちに向けて口を開いた。

「これは、何の騒ぎなのかしら? いったい、私にどんな御用件が?」

「それは自分がお答えしましょう、木花少佐」

 どこまでも平静を装って尋ねた彼女に答えたのは、少し遅れてやってきた、白刃を思わせる目つきの近衛大尉だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ