003
「どうして、そう思えるの? できるかどうか、分からないのよ?」
思わず、そんな言葉を口にしてしまっていた。
それは最悪の一言だったに違いない。
これまで散々、戦争を終わらせるからと犠牲を強いてきた私が、みんなを騙してきたのだと言っているようなものだから。
それでも言わずにはいられなかったのは、きっと私が弱かったからだろう。
そして。そんな私に、東二等兵は自信満々に答えた。
「連隊長にできないのなら、もう他の誰にもできません」
私が、私自身に抱く不信を驚くほどあっさりと切り捨てた彼に、私は思わず言葉を失った。
「……連隊長、俺、故郷に妹がいるんです」
視線をあらぬ方向に彷徨わせながら、突然彼はそう言った。
「今年で十四になるんですけど、来年になったら、兵隊にとられちまうかもしれない。女は後方勤務が多いけど、そんなの、これからどうなるか分からない。だから、早く。この戦争を何としてでも終わらせたいって、そう思うんです」
拙い言葉で懸命にそう言った彼に、私はようやく納得した。
だから、これほど戦うことを望むのね。これ以上、戦禍を拡大させないために、さらなる戦果を求めて。矛盾しているかもしれないけれど、戦争を終わらせるには戦うしかないのだから。
それは。
「ありがとう」
意識せず、私は東二等兵にお礼を言っていた。彼はきっと驚いていたと思う。
それでも、心の底からそう思ったのだ。
「それなら、貴方の戦う理由は私と同じだわ。では、その腕を早く治して。片腕じゃ、戦えないわよ?」
私は微笑んでそう言った。
「う……は、はい、」
東二等兵は何かに見惚れるような表情を浮かべてから、頷いた。
「大丈夫、貴方を置いて行ったりしないわ」
「は、はい! ありがとうございます!」
今度こそ彼は、満面の笑みを浮かべて私の命令を受け入れた。
「自分も、同じ気持ちであります。連隊長殿」
敬礼ができないので、お辞儀をして去っていった東二等兵の背中を見つめながら、隣で軍曹がぽつりと呟いた。
「できることなら、アイツを生きて妹の下へ帰らせてやりたいと、そう思っております」
仲間たちにもみくちゃにされている彼を見つめる軍曹の瞳は優しそうで、同時にどこか、羨むような光があった。
彼の気持ちは私にも理解できる。
職業軍人である下士官から上の者は、その多くが戦災孤児から選ばれている。私たちがそうであるように、きっとこの軍曹にも家族はいないのだろう。
「本当に、良い上官ね。軍曹」
私は褒めるようにそう言った。
「私も、約束します。必ず、この戦争を終わらせると」
誓うように口にした私へ、軍曹は本当に嬉しそうな笑みを浮かべると頭を下げた。
「ありがとうございます、連隊長殿」
それから二か月ほど後。
欧州戦域のとある戦場にいた私の下へ、東二等兵及び彼の所属する中隊が全滅したという報せが届いた。
大戦が終結したのは、さらに一年ほど経った後の事だった。




