018
その日もその日とて、上官から押し付けられた大量の雑務をどうにかこなしたソウジは、疲れた様子で自らの執務室へと戻り、予期せぬ来訪者の姿を見て驚きの声をあげた。
「識防?」
「やぁ、久しぶり」
机の上を埋め尽くしている書類を勝手に読み漁っていたシュンは、帰ってきた部屋の主へ片手を上げて挨拶した。書類を一枚摘まみ上げると感心しているような、呆れているような声で言う。
「なんだい、君。祝典の計画実行責任者まで押し付けられているのか」
「おかげさまでな」
ソウジは机越しに、彼の手から書類をひったくるようにして取り返した。その際、シュンから漂う酒精の臭いに気付いて、顔を顰める。
「なんだお前、飲んでいるのか」
叱るような口調で言ったソウジへ、シュンはまぁねと気怠そうに応じた。
「随分といいご身分だな」
「君には負けるけどね」
皮肉そうに言ったソウジへさらりとやり返してから、シュンは大きく息を吐いて椅子の背もたれへ身体を投げ出した。
「そうだ。お前、あの開拓村についてどこまで知っているんだ。大方、俺と木花に視察任務が命じられることも事前に掴んでいたんじゃ……」
「それについては、また後で」
思い出したように尋ねるソウジを、彼は片手を上げて制した。言葉を飲み込んだ彼へ、シュンは覇気のない半眼を向けると口を開く。
「今は火急の用件があってね」
「火急の用件……?」
質問をはぐらかされたソウジは、納得のいっていない声で聞き返した。
「そう。えーと……」
さて、どうしたものかとシュンは考え込んだ。酒が入っているせいで、いまいち頭がはっきりしない。面倒なので、単刀直入に言ってしまうことにした。
「近衛が叛乱を計画している。彼らなりの言葉を借りれば、蹶起というのだそうだが。来月の十三日に、政府首脳を根こそぎ暗殺するつもりだ。そのことを、君の耳にも入れておこうと思ってね」
「――何?」
告げられた内容の簡潔さと、あまりの突飛さに、ソウジは道端に捨て置かれた子犬のような表情を浮かべて彼を見返した。
「まぁ。そういうことなんだ」
やはり怠そうな顔のまま、シュンは頷いた。
「いや、説明になっていないだろう。どういうことだ」
ソウジが叱るような声で言うと、彼は実に面倒そうに溜息を吐いた後で「お茶はあるかい
?」と尋ねた。




