009
「本当にごめんなさい。まさか、こんな大騒ぎになっちゃうなんて」
衛門を出たところで、サクヤは見送りに出てきてくれたミツルとコウに頭を下げた。
ここならばもう誰に聞かれる心配もないためか、素の言葉遣いに戻っている。
そんなサクヤへ、ミツルは穏やかな笑みを浮かべながら答えた。
「いいや、気にしなくて大丈夫だよ。彼らが喜んでいたのは本当だし、何より、顔を見せてくれと言ったのは俺だからね」
まぁ、この後で何か面倒は起こるかもしれないが。その時は我らが幕僚長殿にお任せしようと、ミツルは心の中でほくそ笑んだ。
その隣で、コウも頷いている。
「そうそう。まぁ、少しばかりはしゃぎ過ぎだけどな」
あれこれと難しいことを考えないコウは、気楽な声だった。その声のまま、彼は誓うようにサクヤへ言った。
「任せろ、サクヤ。お前が戻ってくるまで、誰一人死なせねぇから」
お前もそっち側かと、隣でミツルが溜息を吐いた。サクヤはどう答えたものかと、困ったような顔になったが、やがてそれに頷いた。
「うん、お願いね、コウ君。でも、みんなをあんまりいじめちゃ駄目よ?」
「確約は出来ねぇな」
サクヤの言葉に、ふーんと鼻を鳴らしながらコウは答えた。
今日、自分へ暴言を吐いた兵士たちを頭の中で数え上げている。
「まぁ。これに懲りず、また来てやってくれ、サクヤ」
穏やかな顔に戻ったミツルがそう言った。
「うん」
サクヤは彼に、力強く頷いた。
「それじゃあ、またね!」
今度こそ本当に別れを告げて、サクヤは帝都へと還っていった。
コウとミツルはそれぞれ笑みを浮かべたまま、その背中へ手を振って見送った。
サクヤの背中が、夕焼けで赤く染まる帝都へと吸い込まれて消えた、そのすぐあと。
「さて」
コウが剣呑な声を出した。
「うむ」
穏やかな微笑みを消したミツルも、表情を引き締めて頷いた。
「はしゃぎ過ぎた連中を、一発シバくか」
「俺に降格しただのなんだとと言ったのはどいつだった?」
二人はゆっくりと衛門の中へ戻っていった。
何も知らないまま、サクヤと一日過ごせたことの余韻に浸っている中隊の下へ、閻魔もかくやの表情を浮かべたこの二人が戻ってきたのは、そのすぐ後だった。




