008
「本当にごめんなさい。まさか、あんな大騒ぎになっちゃうなんて」
衛門を出たところで、サクヤは見送りに出てきたミツルとコウへ頭を下げて謝った。辺りに誰の目もないためか、素の言葉遣いに戻っている。
「いや、気にしなくて大丈夫だよ」
それにミツルは穏やかに応じた。
「彼らが喜んでいたのは本当だし。顔を見せてくれと言ったのは俺だからね。まぁ、この後で何か面倒は起こるかもしれないけれど……その時は、我らが幕僚長殿にお任せしよう」
意地の悪い笑みを口元に浮かべて言ったミツルの横で、コウも頷いている。
「そうそう。あれこれと難しいことは、お偉いさんに任せておけばいいんだ」
あれこれと難しいことを考えない彼は気楽そうだった。その態度のまま、コウは誓うようにサクヤへ言った。
「任せろ、サクヤ。お前が戻ってくるまで、誰一人死なせねぇから」
その一言に、お前もそっち側かとミツルが溜息を吐いていた。サクヤのほうは、どう答えたら良いものかと困った顔になってから、やがてそれに頷く。
「うん。お願い、コウ君。……でも、あんまりみんなを虐めちゃだめよ?」
「虐めてねぇよ」
彼女の言葉を聞いて、コウは心外そうに鼻を鳴らしていた。ただし、頭の中では今日、自分への暴言を吐いた兵たちを数えている。
「まぁ、これに懲りず、また遊びに来てやってくれ、サクヤ」
「うん」
気を取り直したように言ったミツルへ、サクヤは力強く頷いた。
「それじゃ、またね!」
別れを告げて、帝都へと帰ってゆくサクヤの背中を、ミツルとコウはそれぞれの笑みを浮かべながら見送った。
その後で。
「さて」
気分を切り替えるように、コウがふっと息を吐いた。その顔からは、先ほどまでサクヤに向けていた感情の一切が消え失せている。
「うむ」
隣で重苦しく頷いたミツルの表情も似たようなものだった。
「俺のことを降格しただのなんだと言っていたのは、どいつだった?」
「三田沢の薄ら馬鹿だな。アイツから殺すか」
何も知らないまま、サクヤと再会できた幸せの余韻に浸っている中隊の下へ、閻魔もかくやという表情を浮かべた二人が戻ってきたのは、そのすぐ後のことだった。




