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桜花舞う!!  作者: 高嶺の悪魔
第一章 春(後) 開拓村視察任務
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第四十七話

「では、改めて。と言っても、すでに開拓部隊指揮官からの報告は済ませましたので、あとは責任者である貴女に幾つかの確認と質問をさせていただくだけです。それが終われば、すぐに退散しますので」

 鞄から筆記具と書類を引っ張り出したソウジの言葉に、ヒスイはくすくすと笑いだす。

「ああ。ごめんなさい。退散、ね。面白い言い方だわ」

 そう言った彼女に、どうにも調子が狂うなとソウジは取り出した鉄筆の尻で頭を掻いた。

 年上の女性というのは本来、こういうものなのだろうかと思った。

 事前に読んだ資料では確か、織館ヒスイは今年で二十四歳だったか。正直、関わったことの無い人種だ。そもそも、彼がこれまでの人生で関わったことのある女性といえばコトネとサクヤくらいなのだが。

「貴方からお聞きしたいのは、普段の開拓部隊の様子についてなのですが」

 咳払いをしてから、ソウジは言った。

「とてもよくやってくれていますよ。流石は軍人さんね。前は、岩一つ動かすだけでも一日かかっていたところを、今では半日も要りませんから」

 答えたヒスイへ、ソウジはさらに尋ねた。

「指揮官である、七倉ヤト大尉についてはどう思いますか?」

 その名が出た瞬間。ヒスイの瞳にほんのわずかだけ、冷静さ以外の何かが光った。ソウジがそれを理解するよりも早く、彼女が口を開く。

「戦時中は、非常に優れた指揮官だったと聞いています。私も、ええ、それは真実だろうと思います。彼がこの街に来てからというもの、開拓計画は順調に進んでいますから。それに、彼を慕って街へやってくる人も増えましたからね」

「……それは、どのような者たちですか?」

 彼女の言葉に引っ掛かりを覚えたソウジは聞き返した。

「大陸で、彼の部下だったという人たちです。復員後、十八歳未満は軍から退役させられたでしょう? それで、行き場を失った者たちが彼を頼ってきたようです」

 なるほど。

 ソウジは、自分が今回の任務を任された理由の一つを知って納得した。追い払った男の下へ、元部下たちが集まっている。確かに、帝都のお偉方にとっては気になる話だろう。


「では、集まった者の多くは未成年ということですね。それを、彼らの監督者は同意しているのでしょうか?」

 できる限りのさりげなさを装いつつ、彼は確信を突いた質問を口にした。そんな彼へ、ヒスイは穏やかな微笑みを向けていた。まるで、そう来ると分かっていたように。

 構わず、ソウジは質問を続けた。

「この街の様子をざっと見て回りましたが、住民には未成年者が多いようですね。中には商売の真似事をしている子供までいました……その子は、最後に監督者と会ったのは半年も前だと言っていました」

「この街では、私が彼らの監督者です」

 彼の言葉を遮るように、ヒスイはあっさりと答えた。

「貴女はまだ二十四だ」

 穏やかさを崩さない彼女に、ソウジは言った。

「貴方こそ、まだ二十二歳ではないですか」

 ヒスイがやり返すように答えた。

 どうやら、ソウジがサクヤの監督権を与えられていることについて知っているらしい。

「他にも、子供たちを集めて、塾のようなものを主催しているとか」

「はい。簡単な読み書きと算術だけですが」

 頷いた彼女に、ソウジは大きく息を吐きだした。

「織館さん。確認というわけではないのですが、貴女は現在の帝国における現行法を理解しておられますか?」

「現行法……中将が仰られたいのは、“年少者監督法”を始めとした未成年者に対する一部の義務免除や権利の制限に関する法律のことかしら?」

 ヒスイはあくまでも平然と答えた。

「もちろん、存じていますよ」

「それならば」

「ところで中将」

 口を開きかけたソウジを、ヒスイは穏やかな声で遮った。そして、尋ねる。

「いったい、それらの、なにが問題なのでしょう?」

 彼女の問いかけに、ソウジは咄嗟に答えることができなかった。

 何が問題なのか。そう、自問する。

「彼らはまだ、子供です」

 自分でも苦しい言い訳だと思いつつ、ようやく見つけた言葉を絞り出した。

「ええ。けれど、自立できないほどでもない」

 ヒスイは涼やかに反論した。

「もう一つ。塾では先ほど言った、基礎的な学問の他に一切、特別な教育は行っていません」

 そう付け加えた彼女に、ソウジは再び言葉を失った。

 何が問題なのだ。もう一度、そう自問する。

 彼らは生活が営めていないわけではない。それは、街の様子を見ていれば分かる。

 文字の読み書きや算術を教えて、なにが悪いのか。学校教育というものが崩壊した現在の帝国では、そうした教育は全て監督者に一任されている。そして、全ての者がその責任を果たすわけではない。

 その中で、彼女が行っている活動はむしろ、望ましいものではないか。

 では。何が問題なのか。

 それは、この国がそれを許していないという、ただそれだけのことだった。



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