第四十三話
開拓村本部へと向かったソウジと街の入口で別れてから、サクヤは街の中を散策していた。
ここが山の麓にあるからだろうか。街全体を見て回った印象としては、帝都に比べて、頑丈な造りの家が多いようだった。もっとも、家の修繕や建て直しが完了しているのは幾つかの大きな通りだけで、全てというわけではないらしい。幾つかの通りへ入ると、再建中の民家が多く、道端には木材や土嚢といった未使用の資材が積み上げられているのが目についた。
しかし、街の活気を見る限り、それも時間の問題であるように思えた。
電力こそ引かれてはいないが、街の中を走る主要な通りには先ほど七倉ヤトの言っていた用水路が掘られている。これが完成すれば、住民の生活環境もぐんと改善するだろう。
そうなれば、もしかしたら。ここは帝都よりもよほど、住み心地の良い街になるのではないかと、サクヤは思った。
幾つかの路地を巡り、通りへ戻ったサクヤの前を小さな男の子と女の子の二人組が横切った。自分よりも小さな女の子の手を引きつつ、どこかへ急ぐ男の子がすれ違いざまにサクヤを見つける。
「あ! おねえちゃんのこと、しってる!」
急に足を止めた彼は目を丸くして、空いている手でサクヤを指さした。
「あら、本当に?」
人を指さすのは失礼だと教えられて育ったサクヤだが、幼い彼の無邪気さに思わず頬を綻ばせると、視線の高さを合わせるために膝を折って聞き返す。男の子はそれに、勢いよく頷いた。
「うん! たいささんだ!」
それから、自分の背中にしがみつくように隠れている女の子へ振り返る。
「な、ほら、ミツミ、そうだろ?」
「うん。ほんとだ……たいささんだ。……しんぶんに、のってた」
男の子の影から遠慮がちな視線をサクヤへ送りつつ、女の子は小さな声で答えた。
新聞というのは、軍の広報のことだろうかと思いつつ、どうやら兄妹であるらしい二人の様子に、サクヤは懐かしい気分になった。
そういえば、昔は私も知らない人の前では、こうやってみんなの影に隠れてばかりだったなぁと思い出す。
と、男の子が屈託のない笑みを浮かべながら、サクヤへ言った。
「たいささんのおかげで、せんそーにかったんだよね!」
心からの無邪気さと共に投げかけられたその言葉に、サクヤは身体を強張らせた。
「えっと、それは……」
曖昧な返答を返しつつ、彼女は困ったように笑う。
懐かしい記憶の中から、急に現実へ引き戻されたからだろうか。上手く、笑えていると良いのだけど。そんな心配をしているサクヤの耳に、今度はミツミと呼ばれていた女の子の声が聞こえた。
「おにいちゃん……もう、いこうよぉ」
懇願するように言いながら、幼い兄の袖を引っ張る彼女とサクヤの瞳が一瞬、重なる。すぐに顔ごと背けられてしまう。
兄の背中に引っ込んだ彼女を見て、そんなところまで小さな頃の自分にそっくりだなぁとサクヤは笑った。
兄の影から窺うような眼差しを向けてくる少女を微笑ましく見ていたサクヤはしかし、その瞳に浮かんでいるのが見知らぬ人と会った気恥ずかしさだけではないことに気が付いた。
何だろうと、心の中で首を傾げていると、もう一度少女と目が合った。
何か、異質なものを見ているような。夜中、ふと目を覚ました時、障子に映る人影を見てしまったような。そんな瞳。
途端、サクヤは理解した。
そうか。この子は、私が怖いんだ。
幼いながらも、いや、或いはそうであるからこそ。この子は敏感に感じ取ったのかもしれない。
大戦の英雄と呼ばれる自分が、戦場で何をしてきたのかを。




