第四十二話
「失礼しました、閣下」
「何故、俺に謝る」
どこか勝ち誇るような笑みで頭を下げたヤトへ、ソウジは憮然とした面持ちで応じた。それに楽しそうな笑いを零しながら、ヤトは去っていった。
「何なんだ、アイツは」
開墾作業中らしい部隊の下へ向かう彼の背中を忌々しげに見つめながら、ソウジが鼻を鳴らした。
「ええ、本当に。びっくりしちゃった」
その横で、サクヤもこくんと頷いた。
「彼の目、本気だったわ……ふふ、ちょっといいかも、なんて思っちゃった」
「な、なにっ!?」
ぽつりと零すように笑ったサクヤへ、ソウジは目を剥いた。
「ま、待て! それはどういう意味だ、木花!?」
すでに街へ向けて歩き出しているサクヤに大声で言う。
「まさか、君、ああいうのが好みなのか!?」
「なによ、いきなり……」
追いすがるように尋ねる彼へ、振り返ったサクヤは呆れたような半眼を向けて答える。
「違います。言ったでしょう? 私は戦嫌いだって」
そう断言した彼女だが、ソウジのほうはまだ納得しきっていないらしい。
「あんな奴、断じて認めんからな。監督者として」
「……こんな時だけ、監督権を振りかざすのは卑怯だと思うのだけど」
はーーと長めに息を吐きだしたサクヤに睨まれて、ソウジは言葉に詰まった。
「いや、しかしだな……」
「ほら、閣下はこれから、村の責任者である織館ヒスイさんとお会いしなければならないのでしょう? 私が同行してもお役に立てそうもないので、少し街を見て回ることを許可してほしいのですが」
ソウジがあのやり取りで、いったいどこをいいかもとか思ったのか問いただそうとする前に、サクヤは話題を切り上げてしまった。
「ああ、それは構わんが……。元から、そのつもりだったからな……」
そう答えたソウジを置いて、彼女は下手くそな鼻歌を歌いながら、さっさと街へ入ってしまう。そんな少女の後姿からは、その内面の複雑さを窺わせるようなものなど何一つ見当たらなかった。
「……いったい、どういうことなんだ」
海に空いた大穴を見つけたような顔でソウジは空を仰いだ。




