第三十八話
「これはどういうことだ、七倉大尉」
ヤトの下へ戻るなり、ソウジは噛みつくように迫った。
「どう、と申されましても」
それに彼は平然としたままの態度で応じた。
「子供の小遣い稼ぎ程度、一々目くじらを立てずともよろしいのでは」
「そういうことを聞いたのではない」
ソウジは地団太を踏むように言った。
「年少者監督法を知らんとは言わせんぞ」
辛うじて残っている自制心のおかげで、その声は低く小さい。しかし、今やその胸中には、この街に来て以来、ずっと抱いていた不信感が溢れていた。
ソウジは往来をさっと見渡した。
若い、若い。みな、若い。歩いているのはどう見ても成年に達していないような年頃の子供ばかり。
そもそも、この通りに軒を連ねる店はいったい誰を相手に商売していると言うのだ。
通りを行く子供たちが客になることはできない。何故ならば、年少者監督法によれば、被監督者である未成年者の財産はすべて、監督者である大人の管理下に置かれるからだ。
給与もその例外ではない。開拓村で働く開拓民にも給与は支払われるが、それが未成年者だった場合、報酬は監督者に直接支払われる。そのため、子供が金銭を手にする機会はほとんどないと言っても良い。少なくとも、帝国の現行法はそう定めている。
無論、彼らの監督者が稼いできた給料のいくらか、或いは全額を小遣いとして渡している可能性もなくはない。被監督者への生活指導などは、全て個々人の裁量に任されているから。
ある意味で。それがこの制度最大の問題でもあるのだが。
「無論、その法律については存じております」
その美貌を焦燥のようなもので歪めているソウジとは反対に、七倉ヤトは涼やかな声で言った。
「しかし、法を取り締まるのは自分らの任務ではなく、邏卒の仕事なので……ああ、最もこの国の警察組織は戦中、軍に吸収されてしまい、塵と残っていませんが」
皮肉そうに口元を捻じ曲げてから、彼は続けた。
「何より、彼ら個人の事情についてまで自分は知りません。街の住民に関することは、自分の裁量外ですから。あくまでも自分は開拓部隊指揮官であって、それ以上でも以下でもありません」
「……ああ、そうだ。そうだった」
冷静に言ったヤトの声に、ソウジは降伏するように肩を落とした。
「俺たちは軍人だった」
すべてを諦めたように、彼はそう呟いた。
復興のための方策や、住民の待遇を決定するのは街の責任者の権限であり、その是非を問うのは帝国議会である。つまり、事は政治の範疇にある。軍人である彼らには、口出しすることが許されていない。
「済まなかった、大尉。今日はあくまで、開拓計画の進捗状況を確認しに来ただけだと言うのに」
咳払いをして、ソウジは詫びるように言った。
「いえ、滅相もございません、閣下」
それにつつがなく応じて、ヤトは再び先導するように歩き出した。あとを追おうと踏み出したソウジはそこで、先ほどのやり取りの最中、サクヤがずっと黙り込んでいたことに気が付いた。
無言で街を眺める彼女の瞳には、確かな憧憬の光が宿っているように見えた。
そうだな。
ソウジは心の中で、サクヤに同意するように呟いた。
活気に満ちる通りを眺めながら、彼は思った。
確かに、ここには大人がいない。子供ばかりの、子供の街。
それは酷く危ういものだとも思う。
だが、同時に。
この光景こそ、俺たちが夢見た平和な祖国だったんじゃないのか。




