第三十六話
「さて、それでは……」
「おーーい! そこの将校さんたちーー! その背が高いのとー、ちっちゃいのとー、あとは、あ! 大尉じゃん!」
ヤトが街の案内を再開させようとしたところで、何処からか彼らを呼ぶ声が響いた。妙に間延びした、幼い少年の声だった。それに心当たりでもあるのか、ヤトはあぁという表情を浮かべる。
「こっちだよ、こっちー!」
彼とは違って、何のことやらわからないサクヤとソウジがきょろきょろと首を動かしていると、同じ声がもう一度響く。そこでようやく、二人は自分たちを呼んでいる少年の姿を見つけた。軒先に置いた台の向こう側から、両手をぶんぶんと振り回している。
「……えぇ、まぁ。この村の名物のようなものですね」
サクヤたちに視線で問いかけられたヤトは、なんとも言えぬ表情でそう答えた。
「覗いてみてはいかがですか。まぁ、それなりに面白いかもしれません」
「いらっしゃい! あ、やっぱり知らない人だ。新しい人? まぁいいや、せっかく来たんだから、見て行ってくれよー」
ヤトに促されて近づいた二人へ、少年は元気いっぱいに口を開いた。彼の前にはひっくり返した桶の上に木板を乗せただけの、粗末な陳列台のようなものがあった。どうやら、露店の真似事でもしているようだ。木板の上には、木彫り細工のようなものが並んでいる。
「ね、ほら、将校さんならお金あるだろー?」
その内を一つを手にとって差し出す少年の、無礼というよりも無邪気なその言葉に、ソウジは思わず苦笑を浮かべてしまう。少年から手渡された木彫り細工を眺め回してから、口を開く。
「これは……熊か?」
お世辞にも、見事とは言えない出来のそれを見て尋ねたソウジに、少年はううんと頭を抱えた。
「いや。虎のつもりだったんだけど、やっぱ似てない? おいら、虎は見たこと無いからなぁ」
悩ましげに言った彼の言葉に、陳列されている木彫り細工をまじまじと観察していたサクヤが感心したように顔を上げる。
「へえ。もしかしてこれ、全部あなたが作ったの?」
その問いかけに、少年は胸を張った。
「そうさ。ぜーんぶ、おいらが作ったんだー」
「まぁ……巧いものだわ」
サクヤはますます感心したように呟くと、先ほどよりも熱心に少年が作ったという木彫り細工を見つめた。それは、工芸品と呼ぶにはあまりにも拙い出来ではある。だが、工作はおろか、自分の髪すら結うことも覚束ないサクヤからすれば十分、尊敬に値する技術であった。
そんな最底辺の不器用から受けた賛辞とは露知らず、少年は酷く嬉しそうに鼻の下を指で擦った。
「上手だと思うんなら、買ってくれよー」
ほらほらと、彼はサクヤの目の前にあった、恐らくは兎を模したらしい細工を、その顔に押し付けるようにしながら言う。
「お姉ちゃん、可愛いから安くしとくよ?」
「か、かわっ……」
少年の一言に、思わずぽっと頬を染めたサクヤの横で、ソウジがやれやれと溜息を吐き出す。
「売り子の世辞に、なにを本気で同様しているんだ、木花」
「む。べ、別に、動揺なんてしていません」
しゃがみ込んでいたサクヤはすっくと立ちあがり、わざとらしく取り澄ました声で反論した。




