第三十五話
「ところで、大尉」
全員の自己紹介が終わったところで、見つめ合っていたサクヤとヤトの間に割り込むように、ソウジが口を開いた。
「はい。開拓計画の進捗についてのご報告、ですね」
「ああ、いや、それはそうなんだが」
頷いたヤトへ、ソウジは言葉を濁した。
彼の視線は街の通りへと向けられていた。そのことに気付いたヤトは、どうやらソウジの言わんとするところを察したらしい。
「そうですね……現在、我が部隊は街の西側を重点的に開墾しています。本来であれば、ここから街の外周を回って行く方が早いのですが、せっかくですし、少しご足労いただいて、街の中をご案内させていただけますか?」
「ん。ああ、そうだな。そうしよう」
まるで、そう言われて初めてその気になったとでも言わんばかりの態度でソウジは答えた。
若くして閣下などと呼ばれているソウジは、滅多なことでは他人に頼みごとをしない。その傲岸不遜さも、ある意味で将官に大切な才能の一つではあるのだが。
街を案内して欲しいってことくらい、素直に言えばいいのにと、サクヤは呆れたような半眼を彼に向けていた。
ヤトに促され、二人は街の中へと踏み込んだ。
「しかし、外から見て気付いてはいたが、随分と綺麗な建物が多いな」
ソウジが通りの家々を眺めながら、感心したように言った。
「ええ。当開拓村の責任者である織館ヒスイさんの指示で、老朽化の酷いものや戦災によって破壊されていた家はすべて、補修されるか、取り壊した上で新しく建て直されていますから」
「そうか」
ヤトの口から織館ヒスイの名が出た瞬間、ソウジの顔に一瞬、気まずそうな表情が浮かぶ。
「ねぇ、大尉」
そこへ、サクヤが割り込んだ。
「この通りにはいくつもお店があるみたいだけど、材料はどこから調達しているのかしら?」
その内の一つ、飲食店らしき店を指さしながら、サクヤが不思議そうに尋ねた。
帝都でさえ、店を開けられない飲食店が多い中、どうしてこんな辺鄙な場所にある開拓村で、それも一本の通りに何軒もの店が建ち並んでいるのか分からないのだった。
「調達先は主に、山からですね」
彼女の質問に、ヤトは伸ばした腕で街の北側に聳える飛禅連山の山々を示しながら答えた。
「山に入れば山菜などが摘めますし、近くには渓流が流れているので川魚も獲れます。あとは、我々開拓部隊がたまに猟に出て、鹿や猪などを狩ってくることもあります。開拓部隊の任務には、任地における治安維持も含まれていて、最低限の武装はしていますから。まぁ、射撃訓練の名目で……おっと、これはご内聞に願います」
なるほどと頷いているサクヤに、ヤトは人差し指を唇に当てながら最後の一言を付け加えた。
「気になるようなら、おひとつ試してみてはいかがですか? 少し、待っていてください」
そう告げて、ヤトは一軒に店に向かって走って行く。サクヤたちの下へ戻ってきた時、彼は手に小さな紙袋を二つ持っていた。
「どうぞ」
ヤトに勧められて、お礼を言いながらサクヤはその一つを受け取った。中には草餅が入っていた。一口、齧ってみる。
「甘い!」
途端、サクヤは感動したように声をあげた。
「生地に使っているヨモギは、山から採ってきたものです。それを麦粉と練って、同じく麦芽から作った水あめのようなものを加えてあります。と、まぁ、こういったように、有り合わせの材料ながら、それなりにうまくやっているのです」
してやったりといった面持ちでサクヤに説明しつつ、ヤトは買ってきたもう一つをソウジへ差し出した。
ソウジはしばらく、受け取った草餅を考え込むように睨んでいた。隣のサクヤが猛禽のような目で手元のそれを見つめていることに気付くと、意を決したように齧りつく。
「……どうして、帝都ではこういうのを売っていないのかしら」
「帝都の近くには緑の残っている山が少ないからだろう。残っていても、そのほとんどが軍用地になっているしな」
草餅を一口で食べきったソウジへ恨めしそうな顔を向けながら疑問を口にしたサクヤへ、彼は身も蓋もない返事を返した。
続きは三日後!




