第三十四話
しばらく、そんな街の様子を茫然とした面持ちで眺めていたサクヤたちは、やがてどちらともなく顔を見合わせた。
「開拓部隊の指揮官が、出迎えに来るはずなんだが……」
ソウジの言葉に答えるように、通りの向こうから軍服姿の男が姿を見せた。言葉を切った彼の視線を追って、サクヤもその人物に目を向けた。
年頃はコウやミツルたちと同じくらいだろう。頭に被った軍帽のつばには、歩兵科の将校であることを示す紅い帯が巻かれており、留め具を開け放った国防色の外套の下には、あちこち煤けた跡の残る、同色の野戦略装を身に付けている。
面立ちはそれなりに整っているのだが、不機嫌そうな仏頂面を浮かべているせいか、心なしか道行く人々から少し距離を取られているように見えた。
軍服姿の男はまっすぐにサクヤたちの前にやってきた。
帝国人男性の平均からみても、それほど高いとは言えない背筋を伸ばすと、長身のソウジを見上げるようにして口を開く。
「御代ソウジ中将であらせられますね」
発せられたその声は、表情に反して不機嫌そうではなかった。どうやら、元々そういう顔立ちであるようだ。
「そうだ。貴官が、七倉大尉で間違いないか」
「はい。当開拓村で、第1151開拓部隊の指揮を任されております、七倉ヤト大尉であります」
聞き返したソウジに敬礼を送りながら、七倉ヤトは名乗った。
綺麗な敬礼だとサクヤは思った。まっすぐに伸ばされた背筋と、眉尻にぴたりと押し当てられた右手の指先。その視線は、微動もせずに敬礼を捧げる相手へと注がれている。
どれをとっても、お手本のような敬礼だった。
「参謀本部次長、御代ソウジ中将だ」
よろしくと、ソウジが名乗り返す。彼は軽く手を上げただけの答礼でヤトに応えていた。気の抜けた敬礼だが、長身に中性的な面立ちと非の打ちどころがない美男子のソウジがやれば、なんでも様になって見える。
手を下ろしたヤトは、次にサクヤへと顔を向けた。彼女を映したその瞳に、諧謔味のある光が灯る。
「これは。まさか、こんなところで貴女とお会いできるとは、“大佐さん”」
サクヤにも敬礼を送りつつ、彼は冗談を言うように口元を緩めた。
「あら、貴方でも陸軍広報なんて読むのね。七倉“少佐”?」
自分でも不格好だなあと思う敬礼を返しつつ、サクヤは応じた。彼女の返答に、ヤトは楽しそうに声をあげて笑った。
事前に知っていた情報から、もっと気難しい人物を想像していたサクヤは、彼のその様子に少しほっとしていた。
「陸軍広報は戦地での数少ない楽しみでしたからね。家族からの手紙は届かずとも、あれだけは律義に毎回届きましたから……いやまぁ、自分に家族はいませんが。貴女の快進撃についての記事を見るたびに、励まされるような気分になりましたよ」
「そう。敵前線の向こうにいても、軍広報は届いたの?」
互いに、自分はあなたのことを良く知っている、ということを果てしなく遠回しに言い合った後で、ヤトが頭を下げた。
「申し訳ありませんでした、木花少佐。少し、冗談が過ぎましたか」
「いいえ。気にしていないわ、七倉大尉」
締まりのない表情で詫びた彼へ、サクヤは微笑みを返した。
今週は明日も更新。
ネット小説大賞に応募させていただきました。
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