第三十三話
ネット小説大賞へむけ、更新再開。
ろくに舗装もされていない道を、延々と馬車の中で揺られ続け、そろそろお尻も限界だとサクヤが心配になり出した頃。ようやく、目的地に着いたことを御者が告げた。
馬車が止まるなり、サクヤは飛び出すように外へ出た。
窮屈な車内から解放された彼女の目にまず飛び込んだのは、朝靄のすっかり晴れた快晴の空と、その下に隆起した飛禅連山の雄大な山並みであった。
緑の山々から吹き降ろす爽やかな風を頬に受けながら、サクヤはしばし、帝都では滅多に目にする機会のない大自然の情景に目を奪われた。
やがて、空の色と溶け合っている山頂から地上へと目を移すと、その麓には山々に抱かれるようにして、小さな街が一つ見えた。
「あれが今日、我々が視察する第1151開拓村だ」
いつの間にか隣に立っていたソウジが、サクヤの視線を追って言った。
「村、というよりも、街のようですね」
はぁと相槌を打って、サクヤは答えた。開拓村というのだからもっと、田畑の間にぽつりぽつりと民家が建っているような、寂しい場所を想像していたのだ。
それを聞いたソウジは呆れたような顔を彼女へ向けた。
「それは……そもそも、“開拓村”という呼び方自体は慣例に則ったもので、実際はそれなりに大きな街や集落があった場所を選定して、開墾の拠点としているわけだからな」
言いながら、開拓に従事する者たちへ住居をあてがうためにも、新しく建てるよりも前からあった者を使った方が早いし、予算も安くつくからだと彼は説明した。
「もっとも、大きな街は空爆やらで戦争被害を受けていることが多いし、中には街と呼ぶよりも廃墟群と言ったほうがしっくりくるような有様の場所もあるのだが、まぁ、つまり開拓村とは農地開墾と同時に、そうした街の復興も兼ねているわけだ」
そこで言葉を切ったソウジは、そんなことも知らなかったのかとからかうように笑った。
「不勉強ですみませんでした」
むっとした声で返したサクヤへ、肩を竦めた彼は「さて」と呟き、街へ向けて歩き出した。不機嫌な表情のまま、サクヤもその背中を追う。
街へと続く道の両側には、開墾されたばかりの田畑が広がっていた。遠くには開拓民らしき者たちの影も見える。
いかにも農村らしい、その牧歌的な風景の中を、サクヤは興味深そうにきょろきょろと首を動かしながら歩いた。二人の後ろからは、馬車がゆっくりとついてくる。
どうやら、そろそろサクヤたちも座っているのが限界だろうと気を利かせて、少し早めに馬車を停めてくれたらしい。
なんにせよ、ずっと同じ姿勢のまま固まっていた足を解すことができるのは嬉しかった。
二人は煉瓦を積み上げて作られた、一対の門柱のようなものが立っている街の入口で足を止めた。「第1151開拓村」と札の掛けられたその向こうには、この街の本通りらしき通りが伸びている。
「これは……」
街の様子を目にしたサクヤは、驚きに目を見開いた。
「なんと、まぁ」
傍らでソウジも呆れたような声を喉から漏らしている。
「あの、御代中将」
眼前に広がる光景から目を離すことなく、サクヤは疑うようにソウジへ訊いた。
「ここは、開拓村なんですよね?」
「ああ。うむ」
それに、彼もまた戸惑っている様子で頷いた。
二人が驚くのも無理はなかった。
農地開拓の拠点に過ぎないはずの第1151開拓村の本通りは、帝都の中心部にも負けず劣らずの賑わいを見せていた。
賑やかな喧噪の響く往来には開拓民に混じって、明らかに農作業以外の仕事に従事しているだろう服装の者も多い。通りには暖簾を掲げている店まであった。その前に立った、店員らしい人物が威勢の良い客引きの声を張り上げているのに混じって、どこかから小さな子供たちの笑い声まで響いていた。
続きは三日後!




