第二十七話
「では、各戦域についてのさらに詳しいことは次回に回しましょう。本日はここまで」
予定していた講義内容を一通り終えたサクヤは、教場の入り口側の壁に掛けられた時計をちらと確認して、生徒たちへそう告げた。
「次回までの、我が軍を始めとした三大勢力それぞれが採用している戦略、戦術の特徴について論文に纏め、提出すること。以上。起立! 礼!」
講義録を閉じたサクヤの号令に合わせ、生徒たちが一斉に立ち上がり、腰を半直角に折る。その一連の動きには、一糸乱れぬ連帯感があった。
入校してからまだ半年と経っていないにも関わらず、彼らがすでに軍人としての行動を徹底して叩きこまれている事実に、サクヤは胸中を暗くさせた。
講義終わりに、生徒たちから前回分の課題を集めているサクヤの耳朶を、乾いた拍手の音が打った。続いて、芝居がかった声が教場に響く。
「いや、良い講義だった。流石は天才作戦家として名高い木花サクヤ少佐。各軍が採用する戦略、戦術を実に的確に、そして分かりやすく解説している」
言うまでもなく、発言者はソウジだった。
教場のど真ん中を悠々と突っ切ってくる彼の姿に、生徒たちが唖然とした顔を向けていた。それはまぁ、そうだろう。先ほどの講義で語られた戦場の一つで、実際に総指揮を執った陸軍最年少の中将を知らぬ者など、この場にはいない。
「恐縮です、御代中将閣下」
皮肉げな笑みを口元に張りつけながら近づいてきたソウジへ、サクヤは取り澄ました表情で頭を下げた。生徒たちの手前、あの時のように砕けた態度で接することなどできない。
教壇の前までやってきたソウジは、わずかに声を潜めると言った。
「しかし、敵軍の犯した失態を指摘するのはともかくとして。自軍まで同じように分析するのは如何なものかと」
さりげない口調だったが、要は自軍を批判するなという苦言だった。それに、サクヤは突き放すような声で応じた。
「私は、過去実際にあった戦闘を講義で取り上げる際、あくまでも戦訓を学ぶべき教材、研究対象として扱っています。そこに自軍か敵軍かと区別をつけるべきではないと考えます」
陸軍中将である自分相手にそう言い切って見せた彼女へ、ソウジは少し困った顔をつくった。
確かに、サクヤは戦術を学ぶ者にとって、この上ない教官だろう。
だが、説明や解説の際に使う言葉の端々には戦争を、ひいては軍そのものを批判するようなものが多分に含まれていた。
それが原因で、後々面倒にならなければいいが。
そんな老婆心から出た言葉だったのだが、まぁ、そうと分からぬサクヤでもないだろうと彼は再び唇を微笑みの形にした。
「……まぁ、いい。今日、私がここへ来たのは別に、君の仕事ぶりに文句をつけるためではないからな」
それなら、なんで講義中に入ってきたのかと訊きたげなサクヤの視線を無視して、ソウジは言った。
「この後、少し時間はあるかね?」
「……次の講義まで、一コマ空きますので。その間でよろしければ」
疑問をはぐらかされ、不満そうに答えたサクヤに対し、ソウジは満足そうに頷いた。
「よろしい。それほど時間のかかる話ではない。ただ、ここで立ち話するような内容でもない。君の教官室でも?」
「構いません」
それなら、最初から教官室で待っていればよかったのにと思いながら、サクヤは硬い口調でソウジに答えた。




