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桜花舞う!!  作者: 高嶺の悪魔
第一章 春(後) 開拓村視察任務
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第二十六話

 多くの生徒は講義に集中していたため、その突然の闖入者には気づいていないようだ。

 しかし、最後列にいた幾人かが気配を感じて振り返っていた。その誰もが、ソウジの姿を見つけるなり、驚愕したように身を固めている。

 彼はそんな生徒たちへ苦笑を浮かべながら、ちゃんと講義を受けるようにと手振りで示していた。それから、怪訝そうに自分を睨んでいるサクヤへ流し目を送りつつ、教場の後ろの壁にもたれ掛かるようにして腕を組んだ。

 さも、抗議を続けろと言わんばかりのその態度に、ますますむっとするサクヤだったが、生徒たちが不思議そうな目で自分を見ていることに気が付くと、取り繕うように咳払いをしてから口を開いた。

「失礼しました、講義を続けます。では、まず初めに――」


 平静を装いつつ、講義を再開させたサクヤだったが、その内心は不審と不満に満ちている。

 一体全体、なぜソウジがここへ来たのか。

 確かに、現在士官学校として使われているこの建物と、彼が勤務している参謀本部はそれほど離れていない。元々、士官学校の校舎は帝都郊外に置かれていたのだが、戦時中に空爆を受けて焼失してしまい、今は陸軍省の施設群の中にある一棟を仮校舎として使用しているためだ。

 だとしても、ここは施設群の西端にある。参謀本部はその正反対、帝宮から最も近い東の端だ。わざわざ参謀本部次長が足を運ぶような距離ではない。用があるのなら、使いを走らせるか、サクヤを呼び出せば良い。

 にも関わらず、彼が直接出向いてきたその理由について。考えれば考えるほど、嫌な予感しかしなかった。


「――最後の欧州戦域は、地理的に見れば大陸中東部にあたります。軍の主目標が欧州皇国軍だったために、この呼称が用いられました。この戦場は、先ほど夏川候補生が述べていたように欧州皇国軍と北方連邦軍、そして我が帝国軍と、三大勢力すべての戦線が交わっていたために、大戦全期を通しても最大の激戦地であったとされています。……ここは、そう。私のいた戦場でもありました」

 辛うじて、意識を講義に集中させたサクヤは、各戦域の説明を終えると口を閉じた。彼女が最後に付け加えた一言に、教場全体が静まり返っている。

「どうだったのですか、木花教官? その、欧州戦域は、」

 一人の生徒が興味津々といった声で訊いた。

「冬月候補生、発言する際は挙手を」

「も、申し訳ありません!」

 サクヤがぴしゃりとした声で注意すると、冬月少年は酷く驚いた様子で詫びた。普段ならば、サクヤはその程度のことを気にするような教官ではないからだった。

 しかし、今は陸軍参謀本部次長の目がある。完璧な教官を演じる必要があるのだった。

 すっかり恐縮してしまった冬月をちらりと見ながら、サクヤは内心で大きく溜息を吐いた。

 ああ。こんなところを見られたくなかったな。

 そんな後悔と憤りが、胸の中に押し寄せてきた。


 そもそも。サクヤは士官学校教官という今の立場が嫌いだった。

 大して年齢も変わらない生徒相手に、偉そうに講義を行うのは恥ずかしいし、彼らから教官などと呼ばれるのも嫌だった。

 何よりも、自分が今していることは彼らを軍人に、自分たちのような将校に育て上げるための講義なのだ。

 戦後、徴兵年齢は再び引き上げられ、十八歳未満の者は軍から退役させられたし、士官学校の受験年齢も十二歳から十五歳へと戻されているが、だとしても彼らがまだ年端も行かない少年少女だということに変わりはない。そんな彼らを、あの地獄のような戦場へ送り出すための手伝いをしているのだと自覚するたびに、サクヤはぞっとするような恐怖に囚われるのだった。

 ふと、一月ほど前の集まりで再会したコトネのことを思い出した。

 彼女は今、開拓部隊を任されていると言っていた。本当に、立派なことだとサクヤは思う。

 国を再建するための、大事な仕事だ。

 それに比べて自分がしているのは、ただ軍を存続させるための何ら生産性もない事ばかり。もちろん、サクヤとて国家が独立を保つためにはある程度の軍事力が必要となることくらい了承している。彼女もそこまで理想に生きているわけではない。

 それでも。了承はしても、了解はしたくなどない。

 本来ならば、私たちは総出でコトネと同じことをするべきなのだと、サクヤは本気でそう考えていた。

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