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桜花舞う!!  作者: 高嶺の悪魔
第一章 春(後) 開拓村視察任務
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第二十五話

「さて、みなさん」

 決して大きくはないが、よく通るサクヤの声が教場に響いた。

 教壇に立った彼女の前には、未来の陸軍将校を目指す十五、六になったばかりの生徒たちが教書を広げた机につき、熱心に講義へ耳を傾けている。

「このように、およそ五十年の長きに渡って続いた前回大戦ですが、直接戦いに参加した勢力は大きく三つに分かれていました。一つ目は、大戦の引き金ともなった欧州動乱を治めた皇帝によって統一された“欧州皇国”。二つ目は、中央大陸の北部過半を支配する国家共同体、“北方連邦”。そして、最後に我が帝国の三つですね」

 そこで言葉を切ったサクヤは、自分を見つめる生徒たちの顔を見渡すと続ける。

「では、この三大勢力がそれぞれ、大戦へと参戦した理由について答えられる人は?」

 教場全体へ問いかけた彼女へ、生徒たちの何人かが立ち上がるような勢いで右手を伸ばす。挙手した生徒の顔をさっと確認したサクヤは、その一人を指名した。

「では、宮野木候補生」

「はい!」

 彼女が名を呼んだのは、線の細い身体付きをした、丸眼鏡の男子生徒だった。宮野木は椅子をひっくり返すようにして立ち上がると、張り切った声でサクヤからの質問に答えた。

「欧州皇国は、戦乱による混乱の最中に失った、海外における領土の再征服を。北方連邦は長年の悲願である、大陸全土の覇権を得るために。そして我が帝国は、そのような侵略者たちから極東の国々を護り、また既に支配下に堕ちた盟邦を解放せんとして参戦しました!」

「よろしい」

 少年の回答に、サクヤは頷いた。

 彼の答えた参戦理由の内、帝国のものだけがやけに立派なことについて、今さら疑問は覚えない。事実、開戦当初から帝国は極東解放、東亞共栄を掲げてきた。たとえ真実がどうであれ、サクヤもまたそう教えられて育ち、そう信じて戦った一人であった。それに、より世界の多くを知った今となっては、他国の軍もまた程度の差こそあれ、同じような教育を行っているのだろうという諦観のようなものを抱いてもいる。

 着席してよろしいとサクヤが告げると、宮野木は顔を真っ赤にしながら腰を下ろした。


「それでは続いて、この二国と我が軍が争った、主な戦場を挙げられる人は?」

 その質問にも、やはり幾つもの手が勢いよく上がった。宮野木もまた手を上げているが、サクヤは別の生徒を選んだ。

「夏川候補生」

「は、はい!」

 ややどもりつつ答えて立ち上がったのは、育ちの良さそうな顔をした少年だった。夏川は嬉しさと気恥ずかしがない交ぜになったような表情を浮かべながら、妙に甲高い声でサクヤからの質問に答えた。

「南方戦域、大陸中央戦域、そして、欧州戦域の三つであります!」

 その答えに、サクヤは頷いた。

「では、夏川候補生。もう少し、詳しく答えられますか? 各戦域における相手国と、我が軍の目的は?」

「はい……な、南方戦域では、失った植民地の再征服を目論む欧州皇国軍と、我が国の庇護下にあった南東諸国防衛のため。中央戦域では南進を図る北方連邦軍を阻止するために。さ、最後の欧州戦域は、東方へと侵攻する欧州軍と連邦軍の戦線がぶつかっており、我が軍はその戦禍から極東諸国を守るべく戦いました!」

「はい。ありがとう、夏川候補生。よく勉強していますね」

 サクヤは満足そうに頷くと、夏川へ着席を促した。

 酷く嬉しそうな笑みを浮かべながら席に着いた彼へ、多くの男子生徒たちが羨ましそうな視線を送っている。その反対に、数少ない女子生徒たちの目は白けていた。

 そうした、男女二通りの反応に気付きつつも、その理由についてまで理解に至らないサクヤは不思議に思いつつ講義録を捲った。


「今回からは先ほど宮野木候補生が挙げてくれた三大勢力、それぞれの戦略や戦術の特徴。そして、夏川候補生が挙げてくれた、三つの主要な戦場において、各軍が実際に行った作戦や戦闘に着目して講義を進めてゆきます。では、まず初めに――」

 講義録を捲りつつ、サクヤがそこまで口にしたところで。彼女の視界の隅で、教場の後ろ側の戸が静かに開いた。

 開いた隙間から忍び込むように入ってきた人物を目にしたサクヤは口を閉じると、怪訝そうに顔を顰める。やってきたのは講義に遅れた生徒でも、士官学校の関係者でもなく、長身痩躯を陸軍の制服で包んだ、中性的な面立ちの美男子であった。その胸に燦然と輝く二つ星は、彼が帝国陸軍中将の位にあることを示している。

 サクヤは彼をむっとした目で睨みつけた。帝国陸軍広しと言えど、その若さで中将に任じられている者は一人しかいない。

 彼女の視線に気づいた御代ソウジ中将は、涼しげに微笑んだ。



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