第二十一話
「……決まったようだな。じゃあ、僕はここで」
話が付いたところで、シュンが静かに口を開いた。それに、サクヤが少し寂し気な顔を向ける。
「忙しそうだね、シュン君」
「まぁ。少しばかり、面倒な仕事を押し付けられていてね」
「そっか……それじゃあ、またね?」
「ああ。また」
約束するように言ったサクヤへ、シュンは薄い笑みを浮かべながら頷いた。軍帽を被りなおし、彼女以外にもそれじゃあと素っ気なく別れを告げると、夜の闇へと紛れて行く。
「なんだ、アイツ。いったい、何をしているのやら」
漆黒の軍装を身に付けているせいで、すぐに夜陰へ溶けて見えなくなったシュンが消えた辺りを睨みつけながら、コウが口を開いた。
「さて、それじゃあ、俺たちも行くか」
「あ、ちょっと待ちなさい」
言って、さっさと歩きだそうとする彼をコトネが呼び止めた。サクヤに向き直ると、少し背をかがめて視線の高さを合わせる。
「それじゃあね、サクヤ。元気で」
「うん。コトネも」
大きく頷いた彼女に、コトネは微笑みを浮かべて続けた。
「暖かくなってきたからって、お腹出して寝ちゃ駄目よ? ご飯もきちんと食べること。それから、ソウジたちはあれこれ煩いけれど、恋愛は自由だからね。でも、お付き合いする前に必ず私に一報入れること。確かめるから。あとは……」
「ちょ、ちょっと、コトネ! 私はもう、子供じゃないんだから!」
放っておけば、延々と注意事項を言い続けるかもしれないコトネを遮って、サクヤが言った。
「ああ、うん。そうね……それじゃあ、またね」
その声で我に返った様子のコトネは、寂しげな笑みを浮かべる。サクヤはまた大きく頷いた。
「うん。またね」
また、の部分を強調して発音したサクヤに、コトネは笑いながら彼女の頭を撫でた。
「じゃあな、サクヤ。また会おうぜ」
その後ろで不敵な笑みを浮かべながらコウが言った。
「コウ君。あんまり、兵士のみんなをいじめちゃ駄目よ?」
「あー。ウン。善処する」
サクヤの言葉に棒読みで答えた彼は、別れ際にひらりと手を振って、先導するように歩き出した。
「ほら、行くぞ。コトネ」
「ちょっと、そっちじゃないわよ」
喧々と言い合いながら、二人は夜道を歩きだした。その後ろ姿がすっかり見えなくなると、サクヤは振っていた手を下ろし、胸の前で握り合わせた。
寂しそうなその背中に、ソウジの声がかかる。
「おい、木花。本当に送っていかなくても大丈夫か?」
その声に、サクヤはくるりと振り返った。澄ましたような笑みを浮かべて、気取った声で答える。
「大丈夫です。いつまでも、ちっちゃな子供じゃないんですから」
「そうか」
その様子に、思わず苦笑しながらソウジは頷いた。
「それじゃあ」
「うん。それじゃあ、また。ミツル君も」
「ああ、中隊に顔を見せに来てくれるのを楽しみにしているよ。いつでも歓迎する」
答えたミツルに大きく頷くと、サクヤは自転車に跨った。
「二人とも、またね!」
そう大きく手を振って、彼女は自転車を漕ぎだした。
残された二人は、サクヤの姿がすっかり見えなくなった後も手を振り続けていた。




