010
「それで? アンタはどうするつもりなの、ソウジ」
ようやく全員が腰を落ち着けたところで、詰め寄るようにコトネが訊いた。
「どうする?」
ソウジは噛みつくような声で彼女に答える。
「何をどうしろっていうんだ。詳細は全て伏せられたまま、証拠もなく、裁判すら行わないまま、アイツらは木花を処刑台に送ろうとしている。あるのはただ、目の上の瘤を取り除きたいっていう老人どもの殺意だけだ。そんな連中相手に……」
「俺はサクヤを助けに行くぞ」
断固たる口調でソウジを遮ったのはコウだった。
ソウジは一瞬、何かを堪えるように瞑目してから彼を見た。腕を組み、自分を見つめ返すコウの顔には、もはや天地がひっくり返ろうとも変わることのない強靭な意思が張り付いている。
その表情のまま、コウは口を開いた。
「御国も、陛下も、軍のことだってもう知らん。たとえサクヤがそれを望んでいなかったとしても。断固として俺は行く。もう決めた」
そう告げて、彼はソウジに訊いた。
「サクヤは何処にいる」
「……分からん。俺にも知らされていない。いや、俺だから、だろうな」
しばし、思い悩むように顔を歪めてから、ソウジは溜息を吐くように答えた。
「ただ、銃殺の日取りと、それがどこで行われるかなら、探れば分かるはずだ」
「教えろ」
「教えて、どうするんだ?」
「決まってる。サクヤを助け出す。そして、サクヤを嵌めた連中のなにもかもをぶち壊してやる」
あまりにもあからさまな、いつも通りのコウの返答に、横にいたミツルが思わず噴き出した。茶化すような笑みで、彼に尋ねる。
「随分な覚悟だな。俺たちが血塗れで迎えに行っても、サクヤは喜ばないかもしれないんじゃなかったのか?」
「知ったことか」
吐き捨てるようにコウは答えた。
その頭の中には、コトネに教えてもらった言葉がある。
恋も戦争。
なんとも分かりやすい。恋愛なんぞの仕方はてんで分からないが、戦争の仕方だけは誰よりも知っているつもりだった。押し進み、粉砕し、勝利するのだ。
「待て待て。そう先走るな」
コウだけでなく、ミツルまでその気になっているところへ水を差したのはソウジだった。
「じゃあ、お前はどうするっていうんだ」
机の上で頭を抱える彼に、コウが訊き返す。
確かに。ソウジにも分かっている。もはや、サクヤを救うためには実力行使をする以外に道はない。
けれど、それでは駄目なのだ。
実力で奪い取ったものは、いつか実力によって奪い返される。
それは繰り返し、歴史が証明してきた真実だ。
自分たちの行いが、いつか、誰かの口実になってしまうことを彼は恐れていた。
そして、強者が常に正しいとは限らない。
そんな彼の懸念を一蹴するように、コウが口を開いた。
「どうせ小難しい事でも考えてんだろうが……そもそもな。お前がその賢い頭をどれだけこねくり回したところで、サクヤを本当に幸せにしてやれるのはお前じゃないんだ」
「な、何の話だ……?」
思いもよらないその言葉に、ソウジは目を白黒させて訊き返す。しかし、コウはそれに答えなかった。
「ミツルでもないし、もちろんシュンでもない。そして、俺でもない」
彼は名を挙げた順にミツルとシュンを睨みつけてから、最期に自分を親指で示した。
正直に言って、コウはサクヤに対する感情が恋なのか、それとも兄妹のように育てられてきたが故の疑似的な家族愛なのか。単に年下の少女に対する庇護欲なのか判断がついていない。
それは恐らく、この場にいる男全員がそうなのだろう。
だが、それでも。たった一つだけ断言できることがあった。
「いいか。サクヤが、いつか心底から惚れたといって俺たちの前に連れてくるのはな、虫一匹殺せねえような甘ちゃんで、俺たちが逆立ちしたって敵わねえ、ぐうの音もでねえほどの聖人君子だ。そうでなきゃならん。そうでなきゃ、認められん」
言い終えると、コウは腕組みをしたままふんと鼻を鳴らした。




