006
「なんだよ。俺が悩んでちゃ悪いのかよ」
痛かったわけではないが、小突かれた後頭部を擦りながらコウが唇を尖らせる。
「悪いわよ」
そこへコトネのぴしゃりとした声が飛んだ。
「思いも悩みもせず、馬鹿正直に真正面から打って出るのがアンタの良いところでしょうが。どうせ考えたって、答えなんか出やしないんだから。考えたり悩んだり、そういうのはソウジかシュンにでも任せておけばいいのよ」
そう聞けば無責任なヤツだと思うかもしれないが、コウに関してはまったくその通りなので、ミツルは敢えて口出しをしなかった。
当の本人はと言えば、あまりにもばっさりと自分の悩みを切り捨てられたからか。言葉を
失っている。そこへ、コトネからの追い打ちは続く。
「まったく。何に悩んでいるのか知らないけれど、よりによってこんな、サクヤが大変な時に凹んでんじゃないわよ」
「サクヤのことだから、こんなに悩んでんだろうが」
叱るような言い方のコトネに、コウが懸命に反論する。しかし。
「だから。何を悩むことがあるのよ。まったく……アンタも、ミツルも、他の男連中も。戦場じゃあ恐れ知らずのくせに、サクヤのことになった途端、揃いも揃って奥手になるんだから」
「いや、それとこれとは……」
呆れたように額に手を当てるコトネへ、ミツルが口を挟む。
「一緒よ」
コトネは人差し指を突きつけるように、きっぱりと言った。
「おんなじことよ。恋も戦争っていうじゃない」
「……なんだ、それ?」
聞き返したのはコウだった。
「恋愛も戦争も、同じようなものだってことよ。目的のためなら、手段は選ばない」
ミツルに突きつけていた指をくるりと上に向けて、教師のようにコトネが教えた。
それに、コウは何かを考えるように、口元を手で押さえた。暫しの無言。そして。
「……そうか。戦争なのか」
どこか吹っ切れた声で、彼が呟いた。
「そうか。それで良いのか」
そうか。そうかと繰り返しながら、何度もうんうんと頷くコウ。
妙に清々しいその表情から、何かを察したのか。コトネがしまったという顔になる。
発破をかけようとしたのは確かだが、何やらよくない方向に火が付いたのではないか。そんな危惧が頭を過ぎる。
しかし、今さら発言を撤回することもできない。
コトネはどうしよう、という顔をミツルへ向けた。彼は別にこれで良いんじゃないかと言うように肩を竦めた。




