005
「馬鹿な真似をするな、させるな、か。簡単に言ってくれるが、さて、アイツらをどうしたもんかね」
杉山と別れてから移動した演習場の丘の上で、ミツルが疲れたように息を吐いた。
「どうにかしなさいよ。中隊長でしょう。アンタは」
その足元に腰を下ろしていたコトネが、励ますようにくすりと笑いかける。まだ目元は赤く、語気にも普段ほどの力はないが、ソウジからの伝言を聞いたことで随分落ち着いたらしい。
「それより、今夜ソウジと待ち合わせる場所。さっき言ってたお店で本当に大丈夫なの?」
思い出したように訊いたコトネへ、ミツルはどうかなと自信無さげに肩を竦めた。
去り際にソウジとの集合地点は何処にするかと尋ねた杉山へ、ミツルは琥翠堂の名をあげた。これが密会ということは分かっていたが、ほとんど毎日を練兵場で過ごすミツルたちは、それほど帝都に詳しくない。共通して知っている場所として思いついたのが、あの喫茶店しかなかったのだ。
「……ま。仕方無いわね」
考え込むように黙ってしまったミツルへ、コトネが話題を切り上げるように言った。
自身も開拓村に赴任中で、帝都の地理などミツルたちと同じようなものなのだ。文句を付けられる立場でもない。
「しかし。ソウジはどうするつもりなのか……」
「それも今夜、話を聞けば分かるでしょ」
空へ向けて問いかけたミツルに、コトネが答える。
それはそうだがと頷きながらも、ミツルの表情は優れない。
サクヤが逮捕された事情は分からないが、理由だけははっきりとしているからだった。
それはきっと、一年前に彼がソウジに尋ねた時から変わらない。
「……場合によっちゃ、本気で覚悟を決めとかないとかもな」
もちろん、サクヤのことではない。
ミツルの呟きに、コトネも頷いていた。
そうだ。他の何もかもを了承したとしても、それだけは断じて受け入れない。
叛乱。叛乱か。なんて甘美な言葉なんだ。
酷く想い焦がれる誰かの名を呼ぶように、ミツルはため息を吐いた。
歴史上、幾度となくそれが繰り返されてきた意味が今なら分かる。愚行とそしられてなお、その誘惑に耐えきれなかった者たちの気持ちが。
手を伸ばせば届きそうな場所にあると、それも余計だった。
畜生。なんで俺は軍人になんかなっちまったんだ。
「……どうだろうな」
悔いるように空を仰いだミツルの耳に、コウのぽつりとした呟きが聞こえたのはその時だった。
「俺たちが血塗れでサクヤを助けに行って……それで、アイツが本当に喜ぶのか?」
誰かに、というよりは自分に向けて問いかけるようなその声に、コトネが驚いたようにコウを見る。
「ちょ、ちょっと、どうしたのよ、アンタ……?」
正気を疑うような。いや、正気過ぎるコウの発言に、コトネは困惑した表情で彼を見つめた。そう言えば、今日は随分と静かだったなと疑問に思う。
コトネから問いかけるような視線を送られたミツルは、曖昧な笑みを作った。
彼女が戸惑うのも無理はない。普段のコウを知っていれば、サクヤ逮捕の知らせを耳にした瞬間、帝都を焼け野原にすると言い出しても何の不思議もないのだ。
だが。
昨年末の第1151開拓村制圧任務から戻って以来、彼のそうした過激な言動はすっかり鳴りを潜めていた。
何かを見たのかもしれない。
そう予想することはできても、ミツルは特に問い質しはしなかった。
コウが何かを悩んでいることは分かっていたが、相談されない限りこちらから聞こうとは思わないし、彼から相談されることもなかった。恐らく、その悩みについて打ち明けられたところで、自分が意味のある答えを返せないだろうと、お互いなんとなく察していたのだろう。
しかし。だからと言って、いまこの状況で彼に腑抜けられていては困るのだ。
「それじゃあ、サクヤが殺されることになっても、黙ってみているつもりなのか?」
「そうじゃねえよ」
煽るようなミツルの言葉に、コウは噛みつくように反論した。だが、その先が続かない。
「そうじゃねぇけど……つまり、ええと……ああ、くそ。なんて言ったらいいんだ」
苛立たしそうにばりばりと頭を掻く彼を。
「なーにを、一丁前に頭悩ませてんのよ」
そんな台詞とともに、コトネが小突いた。




