004
「失礼します」
泣きじゃくるコトネをどうにか宥めようと、男二人が必死になっているところへ、背後から聞き覚えの無い声が掛かった。
ミツルたちが振りむくと、そこにはいつの間にか、見知らぬ顔の大尉が立っていた。
「邑楽大尉と、榛名大尉。それと、延槻中尉ですね?」
「あ、ああ。そうだが……」
酷く落ち着いた様子で確認するように尋ねた彼へ、ミツルが面食らった顔で頷く。
「ああ。お三方とも揃われているとは、実に重畳」
「……そういう君は?」
コトネを守るように立ち上がったミツルが、身構えつつ訊いた。コウも、コトネを庇うように前へ出る。
まさか。本当に上層部が俺たちを?
そんな疑念がミツルの頭を過ぎる。
その大尉が生真面目そうな面立ちに、なんとも胡散臭い笑みを張り付けていることが余計に疑いを深めていた。
しかし。
「ああ。これは失礼」
彼は思い出したように両手を打ち合わせると、さっと背筋を正す。
「自分は御代次長閣下の副官を努めております、杉山と申します」
「ソウジ! ……あ、いえ、御代中将の?」
その名が出た途端、コトネが身を乗り出した。
「あの、中将は今なにを……?」
「お三方とも、木花少佐の件についてはすでにお聞きですね?」
彼女の質問を最後まで聞かずに、杉山が訊いた。
三人がそれに頷くと、彼はなんとも言えない形に唇を捻じ曲げてから言った。
「その件に関連して、閣下は現在、非常に容易ならざる事態に陥られております」
「……よういならざる、ってつまりなんだ?」
迂遠な表現方法を用いる杉山に、コウが疑うような顔で聞き返す。
「そうですねぇ……言うなれば、未知の言語を操る異星人との対話を試みようとしておられるというか……自分としては、ああいった手合いはむしろ動物に近いので、言って聞かせるよりも、叩いてしつけた方が早いのではと思わないこともないのですが」
「……ああ、君もそういう口か」
けろりとした顔でコウに答えた杉山へ、ミツルが安堵とも失笑とも取れぬ溜息を漏らす。
先ほどから、彼の発している雰囲気の正体が掴めたからだ。要するに、上司部下と揃って皮肉屋というわけだった。
「まあ、そういうわけでして。閣下は現在、身動きが取れず……代わって自分が、閣下からの伝言を届けに参ったという次第であります」
杉山は飄々とした笑みを浮かべると、話を纏めるように腰を折った。
「それで? 中将はなんだって?」
耐えかねるような声でコウが尋ねる。杉山はごほんと咳払いをした。
「今夜、詳しく話す。それまで馬鹿な真似をするな。させるな」
以上ですと、杉谷がさっと腰を折る。
簡潔と言えば、これ以上ないほど簡潔なソウジからの伝言に、三人は顔を見合わせた。




