003
「それで? 一体全体、何がどうなっているわけ? なんでサクヤが逮捕されたの? それも国家叛逆罪? どういうことなのか、詳しく、私が納得できるように説明しなさい」
ミツルとコウを練兵場の隅まで引っ張ってきたコトネがそう命じたのは、とりあえず二人の頬を思いきり引っ叩いてからだった。
「いや、それが俺たちにも何が何だか……」
「殺すわよ」
叩かれた頬を擦りながら、もごもごと答えるミツルに、コトネは殺害予告とともにもう一発ビンタを見舞う。
「……っ! お、俺だって何も聞かされてないんだ! サクヤと最後に会ったのは去年の年末で、それから今までの間に何があったのかなんて……ソウジなら何か知っているかもしれないけど、連絡を取ろうにもこの状況じゃ……」
「なに泣き言ほざいてんのよ。死んでも連絡付けなさい。と言うか、あの馬鹿を私の前に連れてきなさい」
「そんな無茶な……」
反論しようとしたミツルの頬を、再びコトネの手の平が襲う。その隣にいたコウは何も言わなかったが、目が合ったのでビンタをされた。
「滅茶苦茶だ……」
弁明の余地さえ与えないコトネの恐怖政治っぷりに、ミツルが途方に暮れたような声を漏らす。
「何が滅茶苦茶よ」
それを聞き逃さなかったコトネが、拳を振り上げた。
どうやら、今度は拳骨が落ちてくるらしい。それでも、彼女に反抗しようとする発想すら出てこない男二人は、びくりとして目を閉じた。
いつ拳が降ってくるのかも分からない、耐えがたい時間が続く。
しかし、いつまで経っても殴られない。それに疑問を抱いたミツルが薄目を開けた時だった。
「――なにが、滅茶苦茶よ。滅茶苦茶なのはどっちよ」
小さく響いたコトネの声は、涙に濡れていた。ハッとして二人が顔をあげる。
「どうにかしなさいよ。アンタたち、帝国陸軍最強の第587連隊でしょ……どうにか、してよ……あの子を助けてよ……」
自分でも子供のような無茶を口にしているのは承知の上なのだろう。
言葉を重ねるうちに堪えきれなくなったのか。勝気なはずの瞳から、ぽろりと涙が零れた。
一滴零れてしまえば、溢れるのはあっという間だった。
「参謀本部にも、行ってきたのよ……ソウジに、会って、事情を聞こうと思って……でも、門前払いされて……どれだけ粘っても、わ、私みたいな、階級の低いのを、ソウジに会わせるわけにはいかないって……たとえ旧知の仲だったとしても、だ、駄目だって……」
泣きじゃくりながら、コトネが言う。
「私、嫌よ……あの子が、サクヤがもしも、なんて考えたら……そんなの、耐えられない」
もしも。その先を口にしなかったのは、そうしてしまえば恐ろしさに負けてしまうと思ったのだろう。
「お、おい」
崩れ落ちるように蹲った彼女へ手を伸ばしたのはコウだった。
痙攣したように跳ねるコトネの肩に手を置いて、どうにか落ち着けようとしている。それでも泣き止まない彼女に、これ以上どうしたらいいのか分からないという顔でミツルを見た。
「……落ち着け、延槻。大丈夫だ」
一呼吸置いてから、ミツルは努力して穏やかな声を出した。
「ソウジには会えなかっただけだろ? サクヤがこんなことになって、アイツがそれを放っておくと思うか? サクヤは大丈夫だ。俺たちだっている。そんなことはさせないから」
そうコトネを慰めながら、彼は自分自身にも言い聞かせていた。
そうさ。そんなことはさせない。
もしも、この国がサクヤを殺すと言うのなら。俺たちは――




