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「何をしていた、木花少佐」
しばらくして、指揮所にふらりと戻ってきたサクヤへ、マレツグが叱るような声を出した。
指揮所には忙しなく人が出入りしている。戦い――たとえ、そうは呼べないものだったとしても――が終わっても、直ちに任務が終了するわけではない。
今回の場合はむしろ、事後処理のほうが厄介かもしれなかった。
しかし、ぼんやりとしたまま何も答えないサクヤに、マレツグが諦めたような吐息を漏らす。
「本部への報告は済ませておいた」
言って、彼は机の上に置かれている書類を手で示した。
それは今日の戦いにおける、彼我の損害を纏めた報告書だった。
今日一日の戦いにおける帝都守備隊の損害は戦死12名、負傷41名、行方不明2名。それらは全て、市街にて戦闘を行っていた第五中隊からのみ出ている。
対する、第1151開拓村の叛乱部隊は――言うまでもない。
仮に今日の戦いを純軍事的に評価するのであれば、圧倒的な大勝利と評する他なかった。
戦闘にした第五中隊の損害は軽微と呼んで差し支えなく、挙げた戦果は敵の、文字通りの殲滅なのだから。
けれど、無論サクヤにとってはそうではない。
彼女はそこに記された数字の意味を、誰よりも知っているから。
「救出した住民は一度、帝都に移送されることが決定した。彼らは帝都で保護される。今、彼らを運ぶための馬車を用意しているところだ」
無言で報告書を机に置いたサクヤへ、マレツグが続けた。
「それから、作戦のために派遣された部隊は第1151開拓村“復興”のため、しばらく現地に留まることとなった。ただし、君は任務完遂の報告のため、ただちに参謀本部へ出頭せよと本部からの指示だ。君の馬車はすでに用意してある。以後の指揮は私が引き継ぐ」
以上だが、何か質問はあるかと尋ねた彼に、サクヤは首を振った。
では、行けとマレツグが指揮所の出入り口を示す。サクヤはそれに、素直に従った。
「……待て。それは?」
立ち去ろうとしたサクヤの手に封筒が握られているのを見たマレツグが、その背中を呼びとめた。
「……ああ、これは」
言われて初めて、そう言えばこの手紙のことをまだ報告していなかったと思い出したサクヤが、手短に経緯を説明する。
「……中身を読んだのか?」
終始、難しい顔でサクヤの話を聞いていたマレツグが尋ねる。
「はい」
「内容は?」
「これと言ったことは何も」
彼の質問に、サクヤは淡々と思ったことだけを答えた。
「それは私が預かっておこう」
最後にそう言って、マレツグが手を差し出す。サクヤは特に迷うことなく、その上に手紙を乗せた。
封筒を掴んだ手が素早く引っ込み、まるで危険物を扱っているかのような手つきでマレツグはそれを制服の衣嚢にしまい込んだ。
彼がそれを読み、その内容をどう解釈し、活用するのか。サクヤには興味が無かった。




